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第二章

26:この寝台はなかなか硬い。ミオさん、我慢できる?

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 旅の旦那様と口づけを交わすなど、最下層奴隷でおまけに『白』のくせに。
 歩き出すと、ジョシュアがミオの後をついてくる。だから、足を早める。でも、歩幅があきらかに違うので、すぐに隣に並ばれた。
「どうして、離れていこうとするの?それに、今朝はあまり話もしてくれないね」
 肩に手を置かれ、ミオは背中を丸めた。
 昨晩のことが瞬時に思い出される。たき火にくべる枝が早々と無くなってしまって、ジョシュアに「一緒に寝よう」と誘われたのだ。
 戯れの口づけも、きつい抱擁もなかった。
 ただ、抱きしめられて眠った。
 再び口づけがしたければ、ジョシュアは旅の旦那様なのだから、好きにすればいいだけなのに。
 この手のことに経験がなく、他人の好意にかなり鈍いと自覚しているミオであっても、ジョシュアにとても気遣われていることを察した一晩だった。
「なんだか恥ずかしくて、どうしていいのかわからなくて」
「ちゃんと僕を意識してくれているなら、嬉しいよ」
「意識というか、なんというか」
 しどろもどろになるミオを見て、ジョシュアは軽く笑う。
「一緒に探そう。この人の出では、すんなり宿が取れるかもわからない」
 いつの間にか、すっかりジョシュアのペースだ。
 北斗星号を引きながら、連れだって歩き出す。
 土産物屋には阿刺伯国のものの他、英国のグレードマザーの肖像画や欧羅巴の紙国旗なども並んでいる。
 ジョシュアが、呆れ顔でグレートマザーの肖像画を手に取った。
「これ、サライエの土産物屋にもあったね」
「四年前に、異国に解放されてから並ぶようになりました。阿刺伯国にはない色使いで、見ていて楽しいです」
「頑固に国の門を閉ざしていたくせに、阿刺伯国の王に一体何があったんだろう」
 ジョシュアは、いぶかし気な顔で肖像画を見つめている。
「グレートマザーがお導き下さった、と聞いていますが」
 すると、ジョシュアは肖像画を元の位置に戻しながら言った。
「英国は、阿刺伯国の開国に手引きはしてないよ」
「え?そうなのですか?西班牙の王女様が阿刺伯国に嫁いでいらしたのも、グレートマザーの進言があったからと」
 いやいや、とジョシュアは首を振った。
「それは、西班牙が独自にやったことだ。グレートマザーは少しお怒りだ」
「ジョシュア様は『白い人』だけではなく、グレートマザーともお知り合いなのですね。凄いなあ」
 ミオは、少しだけ心が躍る。
「グレートマザーは、千艦もの軍船をお持ちって本当ですか?」
「千艦はないかな。その半分ぐらいだ」
「とても冷静で、戰上手なんですよね。女性なのに、すごいです」
「いいや。本当は、かなり感情的な方なんだよ」
「阿刺伯国の富裕層の方は、冷静な英国女王にあやかって、グレートマザー印の商品は勝負のお守りみたいに大事にされていますよ」
 ミオが真面目に答えると、ジョシュアは堪えきれないというように笑いだした。
 何軒か宿を巡って、ようやく一部屋だけ宿を取ることができた。部屋は日当たりが悪く、朝だというのに薄暗かった。
 部屋の真ん中に、寝台が一つ。
 真正面に窓。
 左手には、古びた机と椅子がある。
 部屋の右端に、ジョシュアの荷物とミオの荷物を置けば、空いているスペースは左手前しかない。ジョシュアは「二日ぶりの寝台だ」と言って腰掛けた。身体の重みで、ギシッと軋んだ音がする。
「この寝台はなかなか硬い。ミオさん、我慢できる?」
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