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第一章

18:すごいんだね、ミオさんは

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 ミオは、そそくさとジョシュアの傍から離れ、北斗星号を水辺に連れて行った。ラクダは百リットル近く水を飲むことができるので満足するまで時間がかかる。ジョシュアの元に戻って何か話をして楽しませなければと思うが、足が向かない。
「北斗星号。ジョシュア様が一ヶ月分の料金を払ってくれたのは、ものすごく同情されているってことなのかな。奴隷の俺を憐れんでくれる人に、昔は喉から手が出るほど飢えていた。でも、何でだろう、今は胸の内がもやもやして治まらないんだ」
 北斗星号の硬い毛を撫でながら呟く。
 ようやく水を飲み終わった北斗星号を連れて戻ると、ジョシュアは砂漠を見つめていた。
「砂だらけの景色に圧倒されていたよ。地図とコンパスは持っているけれど、僕一人ではとても砂漠は越えられない。すごいんだね、ミオさんは」
 君から呼び名が代わり、ミオは後ずさりながら両手を大きく顔の前で振る。
「ミ、ミオさんだなんて!よしてください。おいとか、そこのとか、ミオとか、みんなそう呼びます。どうぞ、ジョシュア様も呼び捨ててください」
 ジョシュアは、ゆっくりと首を振る。
「頼りになる旅の案内人に、敬意を込めてはいけないかい?」
「俺は、ただの奴隷です。それに、最下層で『白』だし。そんな、俺に敬意だなんて」
 ふいに、目元が濡れたような気がした。
 悲しくもないのに何でだろうと、ミオは思った。
「僕は、ミオさんって呼ぶよ」
「……目に砂が入ったみたいです」
 目元をぐいぐいと拭うと、心配したジョシュアが寄ってこようとしたので背を向ける。
 じんわりとした温かさがミオの心の中に広がり、染みこんでいった。
 今まで感じたことのない心地よさに包まれる。
 これって、嬉し泣きというのか。
「生まれて初めだ」
 ミオはジョシュアに聞こえないよう小声で呟いた。
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