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第一章
8:余り者同士、今日もよろしくな
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母親違いの新王アシュラフより一日早く生まれているが、公然の隠し子なので阿刺伯国でも英国でも王位や爵位を持っていない。
『白の人』と呼ばれるようになった少年は、十四になる年まで阿刺伯国で過ごし、隣国に欧羅巴各国が手を出すようになると突如、英国に渡った。受難の種となりそうな子供だから置き去りにされたのになぜ?と阿刺伯国は訝しんだ。
ある者は、英国女王の基盤が固まったので呼び戻したのだと言い、別の者は人質と差し出されたのだと言った。さらにま阿刺伯国の民のために自ら英国に渡ってくださったのだという話もあった。
何が真実なのか、定かではない。だが、『白の人』が英国に渡り、阿刺伯国との結びつきが強くなったのは事実だ。
四年前には、固く閉ざしていた阿刺伯国の門が急に開かれ、欧羅巴の旅人がやってきて金を落としていくようになった。それまでは、厳しい法律で阿刺伯国民はがんじがらめにされていたので、昔をよく知る大人たちは自由度が格段に増したと喜んでいる。
ミオのいる旅行社なども、王は欧羅巴人に阿刺伯国を解放するとき、旅する際は必ず現地の案内人をつけるように決めたので急遽できた業種だ。
阿刺伯国の全てが解放されたわけではなく、欧羅巴人が行ってはいけない都市や場所が三分の一以上あり、監視の意味もあった。
『白の人』は、今回の結婚式にやってくる。彼がこの国にやってくる十年ぶりだ。ミオ以外の誰もが心を弾ませていた。きっと、西班牙の第一王女以上の喝さいが、港や行く先々の都市で上がることは間違いない。
もちろん、ミオだって『白の人』のことを尊敬している。でも、たまに思ってしまうのだ。どうして同じような肌の色なのに、自分は最下層で、あちらは雲の上の人なんだろうと。
遺体の匂いをとるため、下穿きとサイティをごしごし洗う。何度も洗われたサイティはもうボロ布に近い。ぎゅっと絞ってそのまま被った。
奴隷部屋から荷物を取ってきて、厩舎に向かった。荷物の中にはすぐに旅に出られるよう、鍋や皿、水などが入っている。
厩舎には、もう老いたラクダの北斗星号しか残っていなかった。
「余り者同士、今日もよろしくな」
北斗星号の背中を撫で、鞍を付けて手綱を引く。奴隷はラクダの背に乗ることは許されていないので、ミオは港に向かって歩いていく。
湾を歩いていると、ラクダを引いた同業者とたくさんすれ違う。
どのラクダも、客の目を引くために、旅のお守りでもある色とりどりの飾りをたくさん付けている。くたびれたサイティを着ているミオより、よっぽど華やかだ。
笑顔を作る練習をしながら、フィティに習った異国の言葉を頭の中で復習する。
フィティは、ウィマの次に客を引くのが上手だ。欧羅巴人客に、いつも新しい言葉を教えてもらうので、旅行社の誰よりも異国の言葉を話せる。
奴隷のくせに堂々としていて、大勢の欧羅巴人客を連れて砂漠の旅に出てもトラブル一つない。いつもチップやお土産をいっぱい貰ってきて、機嫌がいいとミオにも少しくれる。
「ラクダの背中に乗って、砂漠旅行はいかがですか?」
「天幕から砂漠の夜空を見ながら眠るのは最高ですよ」
「食事や寝床のお世話は、お任せください」
「砂漠キツネ、可愛いですよ」
「木に登る不思議な山羊を見に行きませんか?」
ミオも幾つかの言葉を覚えたが、おどおどしているのが悪いのか、せっかく欧羅巴人客が足を止めてくれても質問されるともう駄目だ。
ウィマやフィティはたとえ分からなくても、「ヤーヤー(ええ、ええ)」と適当に答えているのに、それが上手くできない。おたおたしていると、すぐ傍で張っていた別の旅行社の連中がお客をかっさらっていく。
港には、たくさんの小舟が浮いていて英国の旗が舳先で揺れていた。ウィマが双眼鏡で見た小舟に違いない。男性も女性も着飾った格好をしていて、波止場を楽し気に散歩している。荷物を持っているのは、召使いかもしれない。これから泊まる宿に運んでいくのだろう。
港の入り口には、もうウィマとフィティがいた。英国人客数人が、興味深げに二人が連れたラクダを見ている。特に男性は楽しそうだ。
ウィマが指を鳴らしてリズムを取りながらラクダの首を上下させ、フィティは口笛を吹いて鳴き声を上げさせる。
あっという間に二組の客が砂漠の旅を決めたようだ。
「あなたは旅の旦那様!何なりとお申し付けください!」と言うウィマとフィティの歓声が何よりの証拠だ。
その後の展開は決まっている。
『白の人』と呼ばれるようになった少年は、十四になる年まで阿刺伯国で過ごし、隣国に欧羅巴各国が手を出すようになると突如、英国に渡った。受難の種となりそうな子供だから置き去りにされたのになぜ?と阿刺伯国は訝しんだ。
ある者は、英国女王の基盤が固まったので呼び戻したのだと言い、別の者は人質と差し出されたのだと言った。さらにま阿刺伯国の民のために自ら英国に渡ってくださったのだという話もあった。
何が真実なのか、定かではない。だが、『白の人』が英国に渡り、阿刺伯国との結びつきが強くなったのは事実だ。
四年前には、固く閉ざしていた阿刺伯国の門が急に開かれ、欧羅巴の旅人がやってきて金を落としていくようになった。それまでは、厳しい法律で阿刺伯国民はがんじがらめにされていたので、昔をよく知る大人たちは自由度が格段に増したと喜んでいる。
ミオのいる旅行社なども、王は欧羅巴人に阿刺伯国を解放するとき、旅する際は必ず現地の案内人をつけるように決めたので急遽できた業種だ。
阿刺伯国の全てが解放されたわけではなく、欧羅巴人が行ってはいけない都市や場所が三分の一以上あり、監視の意味もあった。
『白の人』は、今回の結婚式にやってくる。彼がこの国にやってくる十年ぶりだ。ミオ以外の誰もが心を弾ませていた。きっと、西班牙の第一王女以上の喝さいが、港や行く先々の都市で上がることは間違いない。
もちろん、ミオだって『白の人』のことを尊敬している。でも、たまに思ってしまうのだ。どうして同じような肌の色なのに、自分は最下層で、あちらは雲の上の人なんだろうと。
遺体の匂いをとるため、下穿きとサイティをごしごし洗う。何度も洗われたサイティはもうボロ布に近い。ぎゅっと絞ってそのまま被った。
奴隷部屋から荷物を取ってきて、厩舎に向かった。荷物の中にはすぐに旅に出られるよう、鍋や皿、水などが入っている。
厩舎には、もう老いたラクダの北斗星号しか残っていなかった。
「余り者同士、今日もよろしくな」
北斗星号の背中を撫で、鞍を付けて手綱を引く。奴隷はラクダの背に乗ることは許されていないので、ミオは港に向かって歩いていく。
湾を歩いていると、ラクダを引いた同業者とたくさんすれ違う。
どのラクダも、客の目を引くために、旅のお守りでもある色とりどりの飾りをたくさん付けている。くたびれたサイティを着ているミオより、よっぽど華やかだ。
笑顔を作る練習をしながら、フィティに習った異国の言葉を頭の中で復習する。
フィティは、ウィマの次に客を引くのが上手だ。欧羅巴人客に、いつも新しい言葉を教えてもらうので、旅行社の誰よりも異国の言葉を話せる。
奴隷のくせに堂々としていて、大勢の欧羅巴人客を連れて砂漠の旅に出てもトラブル一つない。いつもチップやお土産をいっぱい貰ってきて、機嫌がいいとミオにも少しくれる。
「ラクダの背中に乗って、砂漠旅行はいかがですか?」
「天幕から砂漠の夜空を見ながら眠るのは最高ですよ」
「食事や寝床のお世話は、お任せください」
「砂漠キツネ、可愛いですよ」
「木に登る不思議な山羊を見に行きませんか?」
ミオも幾つかの言葉を覚えたが、おどおどしているのが悪いのか、せっかく欧羅巴人客が足を止めてくれても質問されるともう駄目だ。
ウィマやフィティはたとえ分からなくても、「ヤーヤー(ええ、ええ)」と適当に答えているのに、それが上手くできない。おたおたしていると、すぐ傍で張っていた別の旅行社の連中がお客をかっさらっていく。
港には、たくさんの小舟が浮いていて英国の旗が舳先で揺れていた。ウィマが双眼鏡で見た小舟に違いない。男性も女性も着飾った格好をしていて、波止場を楽し気に散歩している。荷物を持っているのは、召使いかもしれない。これから泊まる宿に運んでいくのだろう。
港の入り口には、もうウィマとフィティがいた。英国人客数人が、興味深げに二人が連れたラクダを見ている。特に男性は楽しそうだ。
ウィマが指を鳴らしてリズムを取りながらラクダの首を上下させ、フィティは口笛を吹いて鳴き声を上げさせる。
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その後の展開は決まっている。
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