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第四章

35:お前の唇、弾力があってとてもよかった

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 「ほら、口、開けろって」「何だよ、もっとか?」という声が蘇ってくる。
 冷たく質感のある唇の感覚まで思い出してしまい、アンジェロは前かがみになった。
 ああ、痛い。
 随分、解放してやっていないから、破裂してしまいそうだ。
 フィレンチェを飛び出して以来の感覚だった。
 ドンドンと扉が叩かれた。取っ手が回される音がする。
 アンジェロは、全身を使って扉が開くのを阻止した。
「おい! ここを開けろ」
 扉の向こうで、怒るレオナルドの声が聞こえる。
 アンジェロは、下穿きの中で分かりすく反応を示している下半身を見て、さらに扉を抑える力を込めた。
「作業部屋に入るのは許してねえぞ」
 レオナルドの声がさらに厳しくなり、アンジェロはハリボテの馬と扉を見比べて迷う。
「俺は確かにお前に口づけした。薬を飲ませるためにな。言わなかったのは、お前が気にするだろうと思ったからだ」
 確かに、気にしている。動揺しまくっている。
 でも、それだけじゃない。
 人の目を引くレオナルドのことだ。美しい相手との口づけ経験は数えるほどあるだろう。あか抜けない自分と口づけなんてしたくなかったかもしれない。
 そう思うと、昂っていた体と気持ちは急降下する。
「夏だからって、上半身裸でいるのはよくない。服を差し入れるから、扉を開けろ」
 無性に申し訳ない気分になって、素直に従った。
 細く開けた隙間からローブが差し入れられる。受け取って扉を閉めようとすると、膝が差し込まれた。
 見上げると、怒りと笑いが混じった恐ろしい顔でレオナルドが立っている。
「師匠の作業部屋に籠城だなんてやるじゃねえか」
 レオナルドは、扉の隙間に体をねじ込み作業部屋に入ってきた。
『ふ、服を差し入れるだけって言ったのに。騙した』
「だけなんて言ってねえ」
 レオナルドはアンジェロを壁際にジリジリと追い詰めていく。
 これじゃあ、師匠と弟子ではなく、狩人と獲物だ。
 壁に背中がぶつかり、いよいよ後退するスペースが無くなる。
 壁にもたれながら、ズルズルとしゃがむと、獲物を捕まえる網を放るようにレオナルドはアンジェロの頭にローブをかぶせた。
 腰まで引っ張り降ろされる。
 袖を通され、レオナルドの手の感触を感じる。
 その度に、びくびくと体が跳ねた。
「悪かったな。あんなばれ方をするなら、先に言っておくべきだった」
 レオナルドが、目の前に座った。恥ずかしくてアンジェロは膝を抱えた。
「意識すんなって。これから、やりずらくなるだろう」
 首の下に手を差し込まれ、顎を上げさせられる。
 レオナルドは、少し震えている左手の甲でアンジェロの唇を拭った。
「ほら。これで、無しだ」
 こんなので、無くなる訳ないじゃないか。
 子供だましのやり方だ。
 アンジェロはしぶしぶ顔を上げる。
 レオナルドもレオナルドで、こういう状況になって困っているのかもしれない。
『レオさん、嫌だったでしょう、相手がオレで。どうせ、口づけするならサライみたいな綺麗な人が良かったよね』
「何、拗ねてんだ。自分に魅力が無いって言いたいのか?」
『市場に売っているなら、買いに行きたいぐらいだ』
 馬鹿みたいなことを言っているなあと落ち込むと、レオナルドが距離を詰めてきた。
 広げた足の中にすっぽり収められてしまう。
 再び唇を触られた。
 今度は、手の甲ではなく、親指でだ。レオナルドの左手の震えが直に感じられた。
「また誤解されたくないから言いたくないんだが、お前の唇、弾力があってとてもよかった。自信を持て。本音を言うなら、吸い尽くしたいぐらいだ」
『吸っ……』
 レオナルドは、ローブ越しにアンジェロの体に触れた。胸、腹、そして腕と手を移動させる。
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