16 / 64
第ニ章
16:抱き枕になれって言ってるんだよ
しおりを挟む
手が伸びて来て、アンジェロの頭に置かれた。
『オ、オレは、別に……』
こんなことで御礼を言われるとは思わなかったので、落ち着かなくなる。
レオナルドは椅子から降りて、床にしゃがむアンジェロと同じ視線の高さになった。
「悪い。ちょっと、体を貸してくれ」
レオナルドの手がアンジェロの背中に回る。息が止る程しっかり抱きしめられた後、手が後頭部に回り髪をわしゃわしゃとかき乱された。
アンジェロを引き剥がしたレオナルドは、自分の胸元を右手で掴む。
「なんか、こう、どうしようもなくなってな」
着ているローブに、ぐしゃりと皺が寄った。
何があったの? 話を聞こうか?
そう思うが、不器用な自分がいい聞き手になれるとは思えない。逆に変なことを聞いて、レオナルドの心をえぐってしまいそうだ。
レオナルドは、服から手を離した。
「なあ。急で悪いが、対価を払ってくれねえか?」
レオナルドは、居間から廊下に向かいながらアンジェロを手招きし、自分の寝室に入って行く。そして、ごろりと寝台に横たわった。
訳が分からず立ち尽くしていると、レオナルドが寝台を叩く。
「来いよ」
タダ飯喰らいで世話をかけっぱなしだけど、オレ、怪我人だし、ロレンツォ様を亡くしたばかりだし……。
目を白黒させていると、レオナルドが吹き出した。
「馬ー鹿。何、一丁前に意識してるんだ。抱き枕になれって言ってるんだよ。お前のムチッとした体、案外悪くないからな」
寝台の脇に立つと、レオナルドがブランケットを上げた。
さんざん迷惑をかけているから、対価を払えと言われてしまえばアンジェロは弱い。
絶対、変なことをされるんだ。絶対、めちゃくちゃ変なことを……。
頭が真っ白になりながら隣りに寝そべる。
「背中を向けろ」
両手を庇いながら寝返りを打つと、すぐに腹部の手を回された。
レオナルドの体温が、寝間着越しにじわじわと伝わってくる。
「悪くねえ」
呟いたレオナルドは、肩に額を押し付けてきた。アンジェロの体ががちがちに固まる。
「でも、もうちょっと体の力を緩めてくれねえか。丸太を抱いている気分になる」
なんとか体の力を緩めようと意識していると、レオナルドが深い息をついた。
「お前がいてくれてよかった」
その言葉に、アンジェロの心は、ざわめく。
今まで、彫刻や絵を仕上げ初めて、誰かに褒めてもらえた。
芸術という引換券が無ければ、自分は無価値なのだと思っていた。
『オ、オレ、何もしてない』
背中を向けているので、訴えは届かない。
アンジェロの心のざわめきは、長い時間止まなかった。
『オ、オレは、別に……』
こんなことで御礼を言われるとは思わなかったので、落ち着かなくなる。
レオナルドは椅子から降りて、床にしゃがむアンジェロと同じ視線の高さになった。
「悪い。ちょっと、体を貸してくれ」
レオナルドの手がアンジェロの背中に回る。息が止る程しっかり抱きしめられた後、手が後頭部に回り髪をわしゃわしゃとかき乱された。
アンジェロを引き剥がしたレオナルドは、自分の胸元を右手で掴む。
「なんか、こう、どうしようもなくなってな」
着ているローブに、ぐしゃりと皺が寄った。
何があったの? 話を聞こうか?
そう思うが、不器用な自分がいい聞き手になれるとは思えない。逆に変なことを聞いて、レオナルドの心をえぐってしまいそうだ。
レオナルドは、服から手を離した。
「なあ。急で悪いが、対価を払ってくれねえか?」
レオナルドは、居間から廊下に向かいながらアンジェロを手招きし、自分の寝室に入って行く。そして、ごろりと寝台に横たわった。
訳が分からず立ち尽くしていると、レオナルドが寝台を叩く。
「来いよ」
タダ飯喰らいで世話をかけっぱなしだけど、オレ、怪我人だし、ロレンツォ様を亡くしたばかりだし……。
目を白黒させていると、レオナルドが吹き出した。
「馬ー鹿。何、一丁前に意識してるんだ。抱き枕になれって言ってるんだよ。お前のムチッとした体、案外悪くないからな」
寝台の脇に立つと、レオナルドがブランケットを上げた。
さんざん迷惑をかけているから、対価を払えと言われてしまえばアンジェロは弱い。
絶対、変なことをされるんだ。絶対、めちゃくちゃ変なことを……。
頭が真っ白になりながら隣りに寝そべる。
「背中を向けろ」
両手を庇いながら寝返りを打つと、すぐに腹部の手を回された。
レオナルドの体温が、寝間着越しにじわじわと伝わってくる。
「悪くねえ」
呟いたレオナルドは、肩に額を押し付けてきた。アンジェロの体ががちがちに固まる。
「でも、もうちょっと体の力を緩めてくれねえか。丸太を抱いている気分になる」
なんとか体の力を緩めようと意識していると、レオナルドが深い息をついた。
「お前がいてくれてよかった」
その言葉に、アンジェロの心は、ざわめく。
今まで、彫刻や絵を仕上げ初めて、誰かに褒めてもらえた。
芸術という引換券が無ければ、自分は無価値なのだと思っていた。
『オ、オレ、何もしてない』
背中を向けているので、訴えは届かない。
アンジェロの心のざわめきは、長い時間止まなかった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
【R18】堕ちる
胸の轟
BL
この恋は報われないって分かってる。
この想いは迷惑なだけって分かってる。
だから伝えるつもりはないんだ。
君の幸せが俺の幸せ。君の悲しみは俺の悲しみ。近くで分かち合いたい。だからずっと親友でいるよ。
・・・なんて思ってた。
自分の中の何かが壊れるまでは。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
幸福からくる世界
林 業
BL
大陸唯一の魔導具師であり精霊使い、ルーンティル。
元兵士であり、街の英雄で、(ルーンティルには秘匿中)冒険者のサジタリス。
共に暮らし、時に子供たちを養う。
二人の長い人生の一時。
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる