【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

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第十三章 ルシウス

251:ちょっと涙でも流して迫れば、イチコロだと思うけど

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「おっかえり~」
扉が開いて、朝から執務室に行っていたエドワードとバロンが戻って来た。
恩赦騒動から数日。
まだ、左目の包帯は取れないバロンだが、髪をヘアゴムで一本に結んで潔く火傷の痕を出している。
「お前、まだいたのか?」
エドワードの自室の居間のソファーに座るルシウスを見て、エドワードは冷たい言葉を投げつけてくる。
「これだけ王宮は広いんだから、いいじゃないか、別に」
「好きにしろ」
エドワードはそのまま寝室の方に引っ込んでしまった。
バロンは、そっけないエドワードをしゅんとした顔で見送る。
「バロン、こっちこっち」
暇を持て余していたルシウスは、バロンに話し相手になってもらおうとソファーに呼んだ。
バロンが力なく隣に座る。
「殿下ったら、まだ機嫌悪いの?君が、恩赦は嫌だ―。ヴァレットとしてずっと傍にいたーい!って定例会見で言ったのが、そんなに気にくわない訳?本当は嬉しいくせに、人間て意味わかんない」
「俺が、ですぎたことを言ってしまったからだよ。ヴァレットして傍にいたいと言うのは、個人的に伝えることだった」
肩を落とすバロンの背中を、ルシウスはバンバンと叩く。
「後悔したって遅いって。全世界に配信されちゃったんだからさ。ああいう場で伝えたってことは、殿下の逃げ道を塞いだってことなんじゃないの?」
バロンは、フルフルと首を振る。
かなりしっかりとした体つきをしたバロンのそういう情けないところは、なかなかそそる。
エドワードだって、バロンのこういうところが好きなんじゃないかな、とルシウスは思う。
「気が付いたら、言っていた。計算なんかしていない」
「君ってすごい」
ルシウスは、バロンの結んだ髪をちょんと指先で弄ぶ。
「ボクの真似?」
「煩わしいなら、止める」
バロンが結わえた髪をほどこうとしたので、止めさせた。
「首筋が綺麗だから、似うよ。そのままにしておけば?にしても、よく、髪を結う気になったね」
すると、緩んだ髪をバロンが結び直しながら言った。
「なんていうか、色々ありすぎて、火傷の痕が気にならなくなっちゃったんだ」
「いくら殿下のためとはいえ勇気あるよ、君は。現代の医学では治らないって分かっていても、アイカメラをやるなんて、頭が下がる。まあ、単身でケビンの元に乗り込んだボクのせいなんだけどね」
ルシウスは「ごめん」と囁いて、包帯が巻かれたバロンの左目にそっと触れる。
「ルシウスがケビン首相の元に乗り込まなくても、いつかああいう暴動は起っていただろうし、俺はアイカメラを使っていたと思う」
ルシウスは、軽くため息をついた。
「ボクだったら、殿下、ここまでしたんだから責任を取ってください、って迫るけどなあ。殿下ってアーサーが身を挺して守ってくれた十五年前のことをかなり気にしているから、愛する君のことなんてもっと罪悪感を持っているよ、きっと。ちょっと涙でも流して迫れば、イチコロだと思うけど」
「俺と殿下は、別に、そういう関係じゃ」
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