251 / 280
第十三章 ルシウス
251:ちょっと涙でも流して迫れば、イチコロだと思うけど
しおりを挟む
「おっかえり~」
扉が開いて、朝から執務室に行っていたエドワードとバロンが戻って来た。
恩赦騒動から数日。
まだ、左目の包帯は取れないバロンだが、髪をヘアゴムで一本に結んで潔く火傷の痕を出している。
「お前、まだいたのか?」
エドワードの自室の居間のソファーに座るルシウスを見て、エドワードは冷たい言葉を投げつけてくる。
「これだけ王宮は広いんだから、いいじゃないか、別に」
「好きにしろ」
エドワードはそのまま寝室の方に引っ込んでしまった。
バロンは、そっけないエドワードをしゅんとした顔で見送る。
「バロン、こっちこっち」
暇を持て余していたルシウスは、バロンに話し相手になってもらおうとソファーに呼んだ。
バロンが力なく隣に座る。
「殿下ったら、まだ機嫌悪いの?君が、恩赦は嫌だ―。ヴァレットとしてずっと傍にいたーい!って定例会見で言ったのが、そんなに気にくわない訳?本当は嬉しいくせに、人間て意味わかんない」
「俺が、ですぎたことを言ってしまったからだよ。ヴァレットして傍にいたいと言うのは、個人的に伝えることだった」
肩を落とすバロンの背中を、ルシウスはバンバンと叩く。
「後悔したって遅いって。全世界に配信されちゃったんだからさ。ああいう場で伝えたってことは、殿下の逃げ道を塞いだってことなんじゃないの?」
バロンは、フルフルと首を振る。
かなりしっかりとした体つきをしたバロンのそういう情けないところは、なかなかそそる。
エドワードだって、バロンのこういうところが好きなんじゃないかな、とルシウスは思う。
「気が付いたら、言っていた。計算なんかしていない」
「君ってすごい」
ルシウスは、バロンの結んだ髪をちょんと指先で弄ぶ。
「ボクの真似?」
「煩わしいなら、止める」
バロンが結わえた髪をほどこうとしたので、止めさせた。
「首筋が綺麗だから、似うよ。そのままにしておけば?にしても、よく、髪を結う気になったね」
すると、緩んだ髪をバロンが結び直しながら言った。
「なんていうか、色々ありすぎて、火傷の痕が気にならなくなっちゃったんだ」
「いくら殿下のためとはいえ勇気あるよ、君は。現代の医学では治らないって分かっていても、アイカメラをやるなんて、頭が下がる。まあ、単身でケビンの元に乗り込んだボクのせいなんだけどね」
ルシウスは「ごめん」と囁いて、包帯が巻かれたバロンの左目にそっと触れる。
「ルシウスがケビン首相の元に乗り込まなくても、いつかああいう暴動は起っていただろうし、俺はアイカメラを使っていたと思う」
ルシウスは、軽くため息をついた。
「ボクだったら、殿下、ここまでしたんだから責任を取ってください、って迫るけどなあ。殿下ってアーサーが身を挺して守ってくれた十五年前のことをかなり気にしているから、愛する君のことなんてもっと罪悪感を持っているよ、きっと。ちょっと涙でも流して迫れば、イチコロだと思うけど」
「俺と殿下は、別に、そういう関係じゃ」
扉が開いて、朝から執務室に行っていたエドワードとバロンが戻って来た。
恩赦騒動から数日。
まだ、左目の包帯は取れないバロンだが、髪をヘアゴムで一本に結んで潔く火傷の痕を出している。
「お前、まだいたのか?」
エドワードの自室の居間のソファーに座るルシウスを見て、エドワードは冷たい言葉を投げつけてくる。
「これだけ王宮は広いんだから、いいじゃないか、別に」
「好きにしろ」
エドワードはそのまま寝室の方に引っ込んでしまった。
バロンは、そっけないエドワードをしゅんとした顔で見送る。
「バロン、こっちこっち」
暇を持て余していたルシウスは、バロンに話し相手になってもらおうとソファーに呼んだ。
バロンが力なく隣に座る。
「殿下ったら、まだ機嫌悪いの?君が、恩赦は嫌だ―。ヴァレットとしてずっと傍にいたーい!って定例会見で言ったのが、そんなに気にくわない訳?本当は嬉しいくせに、人間て意味わかんない」
「俺が、ですぎたことを言ってしまったからだよ。ヴァレットして傍にいたいと言うのは、個人的に伝えることだった」
肩を落とすバロンの背中を、ルシウスはバンバンと叩く。
「後悔したって遅いって。全世界に配信されちゃったんだからさ。ああいう場で伝えたってことは、殿下の逃げ道を塞いだってことなんじゃないの?」
バロンは、フルフルと首を振る。
かなりしっかりとした体つきをしたバロンのそういう情けないところは、なかなかそそる。
エドワードだって、バロンのこういうところが好きなんじゃないかな、とルシウスは思う。
「気が付いたら、言っていた。計算なんかしていない」
「君ってすごい」
ルシウスは、バロンの結んだ髪をちょんと指先で弄ぶ。
「ボクの真似?」
「煩わしいなら、止める」
バロンが結わえた髪をほどこうとしたので、止めさせた。
「首筋が綺麗だから、似うよ。そのままにしておけば?にしても、よく、髪を結う気になったね」
すると、緩んだ髪をバロンが結び直しながら言った。
「なんていうか、色々ありすぎて、火傷の痕が気にならなくなっちゃったんだ」
「いくら殿下のためとはいえ勇気あるよ、君は。現代の医学では治らないって分かっていても、アイカメラをやるなんて、頭が下がる。まあ、単身でケビンの元に乗り込んだボクのせいなんだけどね」
ルシウスは「ごめん」と囁いて、包帯が巻かれたバロンの左目にそっと触れる。
「ルシウスがケビン首相の元に乗り込まなくても、いつかああいう暴動は起っていただろうし、俺はアイカメラを使っていたと思う」
ルシウスは、軽くため息をついた。
「ボクだったら、殿下、ここまでしたんだから責任を取ってください、って迫るけどなあ。殿下ってアーサーが身を挺して守ってくれた十五年前のことをかなり気にしているから、愛する君のことなんてもっと罪悪感を持っているよ、きっと。ちょっと涙でも流して迫れば、イチコロだと思うけど」
「俺と殿下は、別に、そういう関係じゃ」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
リナリアの夢
冴月希衣@商業BL販売中
BL
嶋村乃亜(しまむらのあ)。考古資料館勤務。三十二歳。
研究ひと筋の堅物が本気の恋に落ちた相手は、六歳年下の金髪灰眼のカメラマンでした。
★花吐き病の設定をお借りして、独自の解釈を加えています。シリアス進行ですが、お気軽に読める短編です。
作中、軽くですが嘔吐表現がありますので、予め、お含みおきください。
◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる