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第十一章 ラリー
235:なら、私の部屋に子守に来い
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英国建国以来、最大の混乱を見せた日から十日が過ぎていた。
三月の半ばになり、季節は少しだけ春めいてきた。
王宮の裏庭を覆っていた雪も解けて来て、緑色の絨毯が見えつつある。
窓辺に立っても、王宮とそれ以外を分ける鉄柵に、興奮したオールドドメインの暴徒の姿は無い。
真正面には、四角い建物にドームが乘った白い建築物が見える。
あそこにケビンはもういない。
押し入ったオールドドメインの暴徒が彼を捕まえ、王立警ら隊に着き出してきたからだ。
彼は、現実を受け入れられないという顔をしていた。
世間ではダニエルの父親が、オールドドメインの開発者だと言われているが、開発の決断を下したのはケビンだ。
自分が造った物が、ああまで歯向かってくるなんて思いもしなかったのだと思う。
一連の騒動は、英国暴動と名付けられ、世界中で中継された。
ケビンのオールドドメインに対する裏切りとともに、エドワードの告白も世界に激震を与えた。
自分の複製が勝手に造られ、男娼行為をさせられていたこと。
そして、その彼がエドワードの幼馴染のものになっていたこと。
世間は面白おかしく報道を繰り替えした。
今までのエドワードだったら、プライドの高さから、絶対に秘密にする道を選んだだろう。
けれど、そうしなかった。
きっと、バロンというオールドドメインを深く知るうちに、何が大切なのかを学んだのだと思う。
アンがオールドドメインだった件に関しては、さすがのラリーも驚いてしまった。
歴史や軍事、経済など様々なアンプルをインストールしたお蔭で、アンは第三次世界大戦中、様々な決断ができたのだという。
英国の王室は、人間以外の支配者を認めていないので、間もなくアンは女王ではなくなるはずだ。
だが、意外や意外、市民たちは、エドワードが国王になるまでは、アンを女王と呼び続けるという声が多い。
そして、重篤な状態を脱したアンが早くバルコニーに立って元気な姿を見せてくれるよう祈る姿がベックス宮殿前でよく見られる。
また、十二、十三才だったエドワードが、オールドドメインを母と呼ばねばならなかったことには世間はかなり同情的だった。十五年近く時間が経った後の後悔の告白でも、受け入れる国民がほとんどだ。
十五年前のテロ事件、王立細胞研究所機密データ流出を手助けした内通者の存在とケビンやリッチモンドとの繋がり、そして、今回の英国暴動。
全ての事件に同時にメスが入り、日々、新しい真実が報道されている。
グラグラと傾きかけていた英国が、ようやく、安定したときっと誰もがそう思っている。
今回の騒動で所有者から放棄されてしまったオールドドメインの保護や、ドメイン産業が確実に衰退することで生じる職の問題など、問題は山積みだが、国王になるエドワードはなんとか片付けていくだろう。
ああ、彼が国王か。
そう思うと、ラリーは嬉しくなる。
彼の心が手に入いろうが、入らまいが、エドワードが表舞台で輝くのが、ラリーの最上の喜びなのだから。
ラリーは、タブレットで時間を確認した。
もうすぐ、王室の定例会見が始まる。
英国暴動が終わって初めての会見なので、注目度は高い。
エドワードは何を話すつもりなのだろう。
ツツツッと耳にかけていた通信機が鳴った。
「はい。ラリーです」
『エドワードだ。お前、またバーンに休みを取らされたんだってな?』
「はあ。今後、十連勤は認めないそうです」
『オールドドメインとか人間とか関係なしに、度重なる連続勤務は、オーバーワークでしかない』
「分かってますよ。英国暴動とは違う意味の強制休日だって」
『なら、暇か?』
「はっきり言って、何の予定もありません」
『なら、私の部屋に子守に来い』
『本体!子守ってなんだよ』
すぐそばで、ベリルの声が聞こえる。
『そのままの意味だよ、ベリル』
というルシウスの声も。
『このようにうるさくてかなわん。なるべく早くな』
ラリーは笑って、通信を切る。
エドワードの自室には、バロンがいることだろう。
左目に包帯を巻いて、寄り添っているはずだ。
三月の半ばになり、季節は少しだけ春めいてきた。
王宮の裏庭を覆っていた雪も解けて来て、緑色の絨毯が見えつつある。
窓辺に立っても、王宮とそれ以外を分ける鉄柵に、興奮したオールドドメインの暴徒の姿は無い。
真正面には、四角い建物にドームが乘った白い建築物が見える。
あそこにケビンはもういない。
押し入ったオールドドメインの暴徒が彼を捕まえ、王立警ら隊に着き出してきたからだ。
彼は、現実を受け入れられないという顔をしていた。
世間ではダニエルの父親が、オールドドメインの開発者だと言われているが、開発の決断を下したのはケビンだ。
自分が造った物が、ああまで歯向かってくるなんて思いもしなかったのだと思う。
一連の騒動は、英国暴動と名付けられ、世界中で中継された。
ケビンのオールドドメインに対する裏切りとともに、エドワードの告白も世界に激震を与えた。
自分の複製が勝手に造られ、男娼行為をさせられていたこと。
そして、その彼がエドワードの幼馴染のものになっていたこと。
世間は面白おかしく報道を繰り替えした。
今までのエドワードだったら、プライドの高さから、絶対に秘密にする道を選んだだろう。
けれど、そうしなかった。
きっと、バロンというオールドドメインを深く知るうちに、何が大切なのかを学んだのだと思う。
アンがオールドドメインだった件に関しては、さすがのラリーも驚いてしまった。
歴史や軍事、経済など様々なアンプルをインストールしたお蔭で、アンは第三次世界大戦中、様々な決断ができたのだという。
英国の王室は、人間以外の支配者を認めていないので、間もなくアンは女王ではなくなるはずだ。
だが、意外や意外、市民たちは、エドワードが国王になるまでは、アンを女王と呼び続けるという声が多い。
そして、重篤な状態を脱したアンが早くバルコニーに立って元気な姿を見せてくれるよう祈る姿がベックス宮殿前でよく見られる。
また、十二、十三才だったエドワードが、オールドドメインを母と呼ばねばならなかったことには世間はかなり同情的だった。十五年近く時間が経った後の後悔の告白でも、受け入れる国民がほとんどだ。
十五年前のテロ事件、王立細胞研究所機密データ流出を手助けした内通者の存在とケビンやリッチモンドとの繋がり、そして、今回の英国暴動。
全ての事件に同時にメスが入り、日々、新しい真実が報道されている。
グラグラと傾きかけていた英国が、ようやく、安定したときっと誰もがそう思っている。
今回の騒動で所有者から放棄されてしまったオールドドメインの保護や、ドメイン産業が確実に衰退することで生じる職の問題など、問題は山積みだが、国王になるエドワードはなんとか片付けていくだろう。
ああ、彼が国王か。
そう思うと、ラリーは嬉しくなる。
彼の心が手に入いろうが、入らまいが、エドワードが表舞台で輝くのが、ラリーの最上の喜びなのだから。
ラリーは、タブレットで時間を確認した。
もうすぐ、王室の定例会見が始まる。
英国暴動が終わって初めての会見なので、注目度は高い。
エドワードは何を話すつもりなのだろう。
ツツツッと耳にかけていた通信機が鳴った。
「はい。ラリーです」
『エドワードだ。お前、またバーンに休みを取らされたんだってな?』
「はあ。今後、十連勤は認めないそうです」
『オールドドメインとか人間とか関係なしに、度重なる連続勤務は、オーバーワークでしかない』
「分かってますよ。英国暴動とは違う意味の強制休日だって」
『なら、暇か?』
「はっきり言って、何の予定もありません」
『なら、私の部屋に子守に来い』
『本体!子守ってなんだよ』
すぐそばで、ベリルの声が聞こえる。
『そのままの意味だよ、ベリル』
というルシウスの声も。
『このようにうるさくてかなわん。なるべく早くな』
ラリーは笑って、通信を切る。
エドワードの自室には、バロンがいることだろう。
左目に包帯を巻いて、寄り添っているはずだ。
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