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第十章 バロン
232:バロン、君さ。ルシウス以上に怒られると思うよ
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「よか……った……」
とバロンは安堵の息を付く。
「よかないよ。これから、どんだけ、殿下に怒られると思っているんだい?」
「大丈夫だって。ボクが、一番怒られるんだろうし」
とルシウスが、肩をすくめる。
「で、どっちに向かうの?正面の階段、それとも裏門?」
するとラリーはタブレットを見てから「正門の階段に行こう」と言った。
階段周辺は、人間やオールドドメインでごったがえしていた。
すぐにリポーターたちが気づいて、傍に寄ってくる。
「彼は、ケガ人だ。控えてくれ」
階段に座るバロンの前に、ラリーが立って守ってくれた。
ルシウスやベリルはリポーターやカメラマンに揉みくちゃにされる。
上空では、一万羽の配送ドローンが、ゆらゆらと所在投げに飛んでいた。
二体が居なくなったのを見計らったかのように、ラリーが言った。
「バロン、君さ。ルシウス以上に怒られると思うよ」
「分かっています」
すると、ラリーがしゃがみ込む。
「いいや、分かってないね。殿下は、君が身体を犠牲にまでしたことを絶対に喜ばない。左目、見えていないんだろ?」
バロンは、ハッとして、胸ポケットの辺りを探った。
「指示書を読ませてもらったよ。アイカメラはまだ開発段階で、点眼するとアイカメラになるかわりに網膜が焼けてしまって、現代の医療では治らない可能性がほぼ百パーセントだって書いてあった。それでも、君はアイカメラを目に付けた。ボロボロになるのが趣味なのか?」
「そうかも……しれませんね」
バロンは、情けない気持ちではにかむ。
「君のそういう針が振りきれているところ、本当に嫌いだ」
ラリーはバロンの顎を取って、痛みで潤んでいるバロンの左目を拭う。
庁舎の壁に埋め込まれたテレビは、会見の画面を映し出す。画面の右上には『緊急 再放送』という文字が数回点滅した。
エドワードが映っていた。
『私は、皆に詫びなければならないことがある。私と両親はテロに遭い、父ギルバートは死亡。母のアンと私は重傷を負った。私は、十三才で母と再会した、と思った。しかし、本当の彼女はすでに死んでいて、これはオールドドメインという複製だと教えられた。世界は、子供心にもきな臭く、英国の指揮官が不在であれば世界はどうなるかわからないと言われ、私は、母の複製を母と呼ぶことになった』
エドワードはゆっくり息を吸う。
『いくら世界のためとはいえ、母を死んだことにもさせてもらえず、核細胞データを使った複製を母と呼ばねばならないことに、私は抵抗を覚えた。あとは、皆が知っているとおり、ドメイン嫌悪派の私ができあがった。致死にいたるアンプルを彼女のデータ穴に打とうと思ったこともある。けれど、それはできなかった。母の核細胞データを使ったオールドドメインだったからだ』
告白を聞いていて、バロンは苦しくなった。
『悲しみに溺れすぎて、幼馴染に心無いことを言ってしまったこともある。お前たちは、死人を毎日、目にすることが無くて、羨ましい、と。だが、今は後悔の念でいっぱいだ。幼馴染たちも、両親や片方の親を亡くした。複製でも亡くした親に会いたいと思ったのではないだろか。でも、彼らは私にそんなことは一言も言わなかった。私が一番辛いだろうと、私の仕打ちに黙って耐えてくれた。アーサー、ダニエル、メアリー。すまなかった』
エドワードはまた一呼吸置いた。
とバロンは安堵の息を付く。
「よかないよ。これから、どんだけ、殿下に怒られると思っているんだい?」
「大丈夫だって。ボクが、一番怒られるんだろうし」
とルシウスが、肩をすくめる。
「で、どっちに向かうの?正面の階段、それとも裏門?」
するとラリーはタブレットを見てから「正門の階段に行こう」と言った。
階段周辺は、人間やオールドドメインでごったがえしていた。
すぐにリポーターたちが気づいて、傍に寄ってくる。
「彼は、ケガ人だ。控えてくれ」
階段に座るバロンの前に、ラリーが立って守ってくれた。
ルシウスやベリルはリポーターやカメラマンに揉みくちゃにされる。
上空では、一万羽の配送ドローンが、ゆらゆらと所在投げに飛んでいた。
二体が居なくなったのを見計らったかのように、ラリーが言った。
「バロン、君さ。ルシウス以上に怒られると思うよ」
「分かっています」
すると、ラリーがしゃがみ込む。
「いいや、分かってないね。殿下は、君が身体を犠牲にまでしたことを絶対に喜ばない。左目、見えていないんだろ?」
バロンは、ハッとして、胸ポケットの辺りを探った。
「指示書を読ませてもらったよ。アイカメラはまだ開発段階で、点眼するとアイカメラになるかわりに網膜が焼けてしまって、現代の医療では治らない可能性がほぼ百パーセントだって書いてあった。それでも、君はアイカメラを目に付けた。ボロボロになるのが趣味なのか?」
「そうかも……しれませんね」
バロンは、情けない気持ちではにかむ。
「君のそういう針が振りきれているところ、本当に嫌いだ」
ラリーはバロンの顎を取って、痛みで潤んでいるバロンの左目を拭う。
庁舎の壁に埋め込まれたテレビは、会見の画面を映し出す。画面の右上には『緊急 再放送』という文字が数回点滅した。
エドワードが映っていた。
『私は、皆に詫びなければならないことがある。私と両親はテロに遭い、父ギルバートは死亡。母のアンと私は重傷を負った。私は、十三才で母と再会した、と思った。しかし、本当の彼女はすでに死んでいて、これはオールドドメインという複製だと教えられた。世界は、子供心にもきな臭く、英国の指揮官が不在であれば世界はどうなるかわからないと言われ、私は、母の複製を母と呼ぶことになった』
エドワードはゆっくり息を吸う。
『いくら世界のためとはいえ、母を死んだことにもさせてもらえず、核細胞データを使った複製を母と呼ばねばならないことに、私は抵抗を覚えた。あとは、皆が知っているとおり、ドメイン嫌悪派の私ができあがった。致死にいたるアンプルを彼女のデータ穴に打とうと思ったこともある。けれど、それはできなかった。母の核細胞データを使ったオールドドメインだったからだ』
告白を聞いていて、バロンは苦しくなった。
『悲しみに溺れすぎて、幼馴染に心無いことを言ってしまったこともある。お前たちは、死人を毎日、目にすることが無くて、羨ましい、と。だが、今は後悔の念でいっぱいだ。幼馴染たちも、両親や片方の親を亡くした。複製でも亡くした親に会いたいと思ったのではないだろか。でも、彼らは私にそんなことは一言も言わなかった。私が一番辛いだろうと、私の仕打ちに黙って耐えてくれた。アーサー、ダニエル、メアリー。すまなかった』
エドワードはまた一呼吸置いた。
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