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第十章 バロン

231:ったく、どうして僕はこう、貧乏くじばかり引いてしまうんだろう

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「答えはなかった」
「そう。馬鹿だね」
ルシウスは、バルコニーにのけ反って、上空を埋め尽くす大量の配送ドローンを見ながら呟く。
「ボクがさ」
ラリーは、無言が一番の優しさだろうと思い、ベリルの意識をはっきりさせるために、バルコニーに積もった雪を掬って、背中に雪を押し込んだ。
「ギャアッツ。冷てっ」
睡眠薬でぼんやりしていたベリルがが、雪の冷たさで一瞬でシャキッとした顔になる。
「あれ、ケビン首相は?」
「全部、終わった。ほら、帰るよ」
ルシウスはバルコニーから垂らされた出来合いのロープで下へと降りていく。
「本当、ダサいよね。王立警ら隊ってさ」
「文句なら後で受ける。僕は、未だに起きそうにない、このデカイの連れて脱出しなくじゃいけないからね」
ベリルがロープを伝って階下に降りていくのを確認しながら、ラリーは苦い顔で叫んだ。
 
「ったく、どうして僕はこう、貧乏くじばかり引いてしまうんだろう」
バロンは、遠くから聞こえる愚痴めいた声と、自分の胸の辺りを探られる感覚で目覚めた。
左目は、まだジクジク痛い。
ラリーが、バロンの胸ポケットに紙を押し込んでいた。
部屋の外では、『ウォー』という叫び声や『どこだ、探せ』という怒声がする。
バロンが目覚めたことに気付いたのか、「殿下とか、修理屋とか、ゲーマーとか、外部の見事な連携プレーで終了したよ。あとは、暴徒がケビンを捕まえて、感動のエンディングだ」とラリーが言いながら、バロンを片腕で丸太のように抱え上げた。
「三年前も思ったけど、君、重いなあ。ったく、助けるんじゃなかったよ」
ラリーはぶつくさ言いながら、バルコニーへと向かう。
三年前?
もしかして、鹿の園の放火のこと?
自分が放った火で、部屋で死にかけていた俺に逃げろと言って、窓に向かって放り投げたのは、ラリーさん?
そう聞きたいが、まだ、疑似スクリーニングアンプルに含まれた睡眠薬が抜けきらず、「あ、う……」と声を発するので精いっぱいだ。
ラリーは片腕でバロンを抱えたまま、バルコニーを乗り越えて、もう片方の手でロープを掴んだ。
「高い所は苦手?だとしても、暴れないでよ」
ラリーは淡々といって、ロープを伝って降下していく。
馬車の中で着替えたときに見えた筋肉、飾りじゃないんだなあとバロンはぼんやりした頭で思っていると、部屋の扉がけ破られた。
興奮した暴徒がなだれ込んできて、バルコニーまで押し寄せてきた。
即席のロープを掴んで、グルグルと振り回し始めたので、ラリーは面倒臭そうに言う。
「もう、このまま落ちるよ、いいね」
「ちょっ……」
ラリーがロープから手を離し、ふわっと身体が浮き上がるような感覚があった。
そのまま雪の小山に落下する。
バフンッと粉雪が舞い上がった。
「うわー。マジで落ちてきた」
とルシウス。
「バロン。大丈夫?気絶していない?」
とベリル。
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