【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

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第十章 バロン

229:そいつは、もう抹殺された。社会的な抹殺だ。男として、それ以上辛いことはない

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叫ぶケビンをラリーは、そのままベッドに引き倒した。
そして、彼を跨いで、額に銃口を突き付ける。
「え?デイビット?どちらさん?」
ラリーは、ケビンに銃口をつきつけたまま片手でヘルメットを脱ぎ、フェイスマスクを取っていく。
「お久しぶりです。ケビン元国防総省長官」
「お前は、……ラリー?」
「そんな、幽霊を見たみたいな顔をしないでくださいよ。そこいらにいる普通のオールドドメインです。ただし、初回のスクリーニングは受けていませんので、過去の記憶はそのままありますが」
ラリーは、ライフル銃の引き金に手を掛けた。
「僕は、第三次世界大戦時に、中東の戦場で死んだ。無謀な突撃はあんたの作戦だった。僕はオールドドメインになって、それから王立警ら隊に招かれ、越権行為に手を染めるのが日常茶飯事になった。だから、気になって調べてみたんだ。あの中東の戦場のことを。あの日の作戦の指示は、数パターンあって、あんたの作戦だけ突出して危険だった。その作戦に僕を加えたのは、あんたが僕を、十五年前のテロ事件について調べる軍調査委員会の人間だと疑ったからだろう?残念ながら、あんたの勘は外れた。僕は犬死にさせられた、ただの兵士だ」
バタバタと足音がして、扉が開いた。
同じアサルトスーツを着た兵士が数名、銃口をラリーに向ける。
ラリーは躊躇なく、彼らの肩を打ちぬいて、扉とは逆側の寝台にケビンを連れて非難する。
再びラリーはケビンの額に銃口を突き付ける。
「一つ、教えておいてやる。ルシウスの約束は、あんたが手紙を書くことだったそうだ」
「手紙?」
「ルシウスが王になったら、がんばったねと書いた手紙を送るとあんたは約束したそうじゃないか。ルシウスはそれを希望の光にして頑張ったんだ。純粋なあいつは、純粋に怒っただけだ。だから、ああいう結果になった」
ラリーは、窓を指さす。
議会の上は、配送ドローンの鳥達で埋め尽くされつつあった。
「もう間もなく、ルシウス作『ボクの悲劇日記』がバラまかれる。あんたがどんな風にルシウスを抱いたとか、周りがゲラゲラ笑いながら、聞くことだろう。そんなの見たくないだろう。寝ちまえよ。永久に目覚めないよう、手伝ってやるからさ」
すると、部屋の隅でツツツッと通信を求める音がする。
『ラリー兄さーん。殿下が通信を求めています。近くにタブレットはない?』
ラリーは、その声を無視する。
ケビンを殺すのは、今が千載一遇のチャンス。
これを逃せば、機会はない。
『よせ、ラリー』
低い声が部屋に響いた。
「殿下」
怒りでおかしくなっているラリーでも、さすがにその声を聞くと、ライフルの引き金にかける指の力が甘くなる。
『そいつは、もう抹殺された。社会的な抹殺だ。男として、それ以上辛いことはない』
なだめる声が、ラリーの心にじんわりと染みていく。
銃口をケビンの額から外さず、ラリーは窓辺でルシウスが見ていたタブレットのスイッチを入れた。
画面上半分にエドワード、下半分にこの部屋が傾いて映っている。
「そうか、アイカメラ」
左目を開けたまま眠っているバロンがこの部屋を映しているのだ。
つまりは、ラリーが殺人を犯そうとしている様子もずっと映っていたのだ。
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