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第十章 バロン
228:細胞に刷り込まれるほどの厳しい躾けをしておくべきだった
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「ふん。とうとう尻尾を出したな。お前は、やはり過去を覚えているんだな。しかし、政治家である私は、男娼のオールドドメインの苦しみなど知らん」
掴みかかっていくベリルを簡単に床に押し付けて、ラリーに二本目のアンプルを渡すように言う。
「ドメイン共存派が、聞いて呆れる。化けの皮を……」
左手のデータ孔にアンプルが刺されると、ベリルの罵倒は止んだ。
「最後は君か、バロン」
ケビンはバロンの正面に座った。
左目は乳白色にぼやけているので、きちんとはケビンを捉えられない。
「君もやはり、過去を覚えていたのか?王宮で握手をしたとき、初対面の演技しているようには思えなかったが?それとも、その後、何かのきっかけで思い出したのかな?」
やれやれ、とケビンは言った。
「国防総省長官になって、累計百体はオールドドメインを目覚めさせてきた。その中で、一番、君は、臆病だけが取り柄で、見た目も中身も一番不出来だったよ」
ケビンはバロンの顔の左側を集中的に見て、嫌悪を露わにする。
「その上、ひどい火傷までこしらえて、さらには、左目が白く濁っているぞ。どこまで、汚くなれば気が済む?」
言葉の一つ一つがバロンの心に刺さってくる。
「一つ、聞きたいことがあります。貴方は、機密データを盗ませる実行犯をリッチモンド伯爵に自由に選ばせたのですか?それとも、俺を最初から指定したのですか?」
「リッチモンド?そういえば、そんな奴もいたなあ。ああ、彼に君を実行犯に仕立てるよう命令したよ。君は万年最低の騎士ランクの男娼だったし、鹿の園の方でも失ったとして大した痛手はないと思ってね」
バロンの見えない左目から、すうっと涙が伝った。
悲しくてではない。
悔しくて泣いているのだ。
「殿下に違法娼館から助け出され、十日ほどして、貴方がやってきました。「初めまして」と俺が挨拶すると、貴方はとてもうれしそうでした。「テレビでよく見ています」と言うととても安心した風でした。俺は記憶を消されることがこんなにも悲しいのに、貴方は俺が忘れていて嬉しいだなんて、あんまりだ」
「オールドドメインが、人間のすることを非難するなんて、軍での初期教育を間違えていたようだね。記憶はスクリーニングで忘れてしまうにしても、細胞に刷り込まれるほどの厳しい躾けをしておくべきだった」
ケビンは、ラリーに手を伸ばし、最後のアンプルを渡させる。
アンプルを打たれたバロンは何も言わず眠った。
「本当に眠っているのか?左目だけ開いていて、気持ちが悪い」
ケビンは、寝室のベッドに腰掛けた。
「やれやれ。この三体、今後どうしたものか。まだ数回はスクリーニングできるだろうから、バロン以外は、性具として楽しむか」
すると、窓辺に横たわっていたルシウスの指が数度痙攣する。
傍に寄っていたケビンは、ひざまづいて疑問の声を上げた。
「何故だ。スクリーニング用のアンプルを打てば、弛緩しきって長時間動けないはずだ。これでは間もなく目覚めそうな勢いじゃないか。記憶が無くなっていたとしても、騒がしくて困る」
そして、ケビンは空を見上げる。
「何だ、表が薄暗い。鳥か?議会の上に鳥が大量に集まっているぞ。配送ドローンじゃないだろうな」
窓に貼りついて慌てるケビンに、ラリーはゆっくりと近づいて、両手で端と端を掴んだライフル銃を彼の首に回した。
「おい、デイビット。何を!?」
掴みかかっていくベリルを簡単に床に押し付けて、ラリーに二本目のアンプルを渡すように言う。
「ドメイン共存派が、聞いて呆れる。化けの皮を……」
左手のデータ孔にアンプルが刺されると、ベリルの罵倒は止んだ。
「最後は君か、バロン」
ケビンはバロンの正面に座った。
左目は乳白色にぼやけているので、きちんとはケビンを捉えられない。
「君もやはり、過去を覚えていたのか?王宮で握手をしたとき、初対面の演技しているようには思えなかったが?それとも、その後、何かのきっかけで思い出したのかな?」
やれやれ、とケビンは言った。
「国防総省長官になって、累計百体はオールドドメインを目覚めさせてきた。その中で、一番、君は、臆病だけが取り柄で、見た目も中身も一番不出来だったよ」
ケビンはバロンの顔の左側を集中的に見て、嫌悪を露わにする。
「その上、ひどい火傷までこしらえて、さらには、左目が白く濁っているぞ。どこまで、汚くなれば気が済む?」
言葉の一つ一つがバロンの心に刺さってくる。
「一つ、聞きたいことがあります。貴方は、機密データを盗ませる実行犯をリッチモンド伯爵に自由に選ばせたのですか?それとも、俺を最初から指定したのですか?」
「リッチモンド?そういえば、そんな奴もいたなあ。ああ、彼に君を実行犯に仕立てるよう命令したよ。君は万年最低の騎士ランクの男娼だったし、鹿の園の方でも失ったとして大した痛手はないと思ってね」
バロンの見えない左目から、すうっと涙が伝った。
悲しくてではない。
悔しくて泣いているのだ。
「殿下に違法娼館から助け出され、十日ほどして、貴方がやってきました。「初めまして」と俺が挨拶すると、貴方はとてもうれしそうでした。「テレビでよく見ています」と言うととても安心した風でした。俺は記憶を消されることがこんなにも悲しいのに、貴方は俺が忘れていて嬉しいだなんて、あんまりだ」
「オールドドメインが、人間のすることを非難するなんて、軍での初期教育を間違えていたようだね。記憶はスクリーニングで忘れてしまうにしても、細胞に刷り込まれるほどの厳しい躾けをしておくべきだった」
ケビンは、ラリーに手を伸ばし、最後のアンプルを渡させる。
アンプルを打たれたバロンは何も言わず眠った。
「本当に眠っているのか?左目だけ開いていて、気持ちが悪い」
ケビンは、寝室のベッドに腰掛けた。
「やれやれ。この三体、今後どうしたものか。まだ数回はスクリーニングできるだろうから、バロン以外は、性具として楽しむか」
すると、窓辺に横たわっていたルシウスの指が数度痙攣する。
傍に寄っていたケビンは、ひざまづいて疑問の声を上げた。
「何故だ。スクリーニング用のアンプルを打てば、弛緩しきって長時間動けないはずだ。これでは間もなく目覚めそうな勢いじゃないか。記憶が無くなっていたとしても、騒がしくて困る」
そして、ケビンは空を見上げる。
「何だ、表が薄暗い。鳥か?議会の上に鳥が大量に集まっているぞ。配送ドローンじゃないだろうな」
窓に貼りついて慌てるケビンに、ラリーはゆっくりと近づいて、両手で端と端を掴んだライフル銃を彼の首に回した。
「おい、デイビット。何を!?」
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