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第十章 バロン

226:サーシャという男も、身柄を確保済みです

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しかし、ドメインチェッカーは、バロンやベリルの身体のどの部位を触っても、クリアの青色に光るだけだった。
「お前、どこの部隊のものだ。名前は?」
ドメインチェッカーを仕舞いながら、一人の特殊警備兵がラリーに向かって聞いてくる。
「デイビットだ」
「デイビット?そんな名前の男、いたか?おい、ドックタグを見せろ」
疑う特殊警備兵を避けるため、ラリーはケビンに素早く耳打ちする。
「ハイウィカムの件で、ご連絡が」
そして胸ポケットを開いて、赤色のアンプルを見せた。
「他の者は下がっていい。彼にこのまま、バロンとベリルの護衛を続けさせる。デイビット、二体を連れて付いてきたまえ」
ケビンは、先だって歩き出す。
案内された場所は、四階の奥まった部屋だった。
そこには、ルシウスがいて、窓辺の椅子に座っていた。タブレットをつまらなそうに見ている。
「ルシウス!」
ベリルが彼に向かって駆け出していく。
「ベリル、それに、バロンも。何しにやって来たんだよ!」
「何って、会いたかったんだよ!」
本音をポロリとベリルがもらし、バロンは全身が冷えた。
「おや、ベリルは、どうしてここにルシウスがいるって知っていたんだい?」
ケビンが、笑顔を貼りつけた不自然な顔でベリルを問い詰める。
「いや、その」
ベリルが口ごもると、ルシウスが立ち上がった。
「ボクが、彼らの前で、ケビンに会いたい、ケビンに会いたいってしょっちゅう言ってた。だから、こいつら、当てをつけて来ちゃったんだと思うけど?」
「君たちドメインは、人間では思いもよらない、思い切ったことをするねえ」
ケビンは、机からドメインチェッカーを取り出し、また、バロンやベリルをチェックしはじめる。
そして、それはラリーにも向けられた。
相当、慎重だ。
ラリーの身体に当てられたドメインチェッカーは黄色に光る。
「通信機器は軍の装備品しか持っていないようだね。全部、スイッチを切って別室へ」
ラリーは言われたとおりにする。
「で、ハイウィカムの件とは?」
ケビンが言うと、再び椅子に座ったルシウスが、チラリとラリーを見る。
目とフェイスマスク越しのくぐもった声だけで分かるかは、ラリー側からは判断がつかない。
「飛行区域を特定しました。これで、一万羽の配送ドローンは、一羽たりともクラッシックシティーに侵入不可能です」
すると、ルシウスが焦った顔で立ち上がった。
「嘘だ!サーシャが、ヘボい運輸省のシステムを攻略できないわけないだろ!」
ラリーはケビンに耳打ちする。
「サーシャという男も、身柄を確保済みです」
「分かった」
ケビンは、ラリーの報告にニヤニヤが隠せない。
今だ!
バロンは、右手の親指の付け根を押した。
びりびりとした痺れが、腕や肩、首をつたって目の奥に伝わっていく。
悲鳴が漏れそうになり、唇を噛む。
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