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第十章 バロン

221:そのアサルトスーツ、特殊警備兵のものですよね

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『ノリの悪いところは、昔のままだな。つまり、機能を極限まで落として外部と通じるってことだ。アイカメラで撮った声や映像は、俺にだけ届く。右手の付け根を強く押すして、録画をスタートさせな。けど、声だけでいいなら、クラッシュさせた右手のデータ孔でも録音はできるし、アイカメラはいらないぜ」
「いや、ケビン首相の映像は絶対に欲しい」
『指示書を読んだうえで、ギリギリまでよく考えな。間もなく、王宮の外か?』
「セドリック!入り口に馬車が見える」
とベリルが叫ぶ。
『おお、そうだ、ベリル。その、馬車に乗り込みな。食えないラリー兄さんが待っているはずだから』
「ラリーさんが?」
意外なオールドドメインの登場に、バロンは声を高くした。
『変人サーシャの情報を掴んできた王立警ら隊の副隊長が気になってどんな人かと思って調べたら、この決戦にはなくてはならない人物、いや、オールドドメインじゃないか。きっと、鼻息荒くして待っているぜ。じゃあ、そろそろ、ラリー兄さんにバトンタッチさせてもらうわ。バロン、くれぐれも指示書をよく読めよ」
通信がぷつんと切れた瞬間、目の前に迫っていた馬車の扉が空いた。
そこから顔を出したラリーが「早くっ!」と叫ぶ。
バロンとベリルは、そこに飛び乘った。
ラリーは、トランペットみたいな楽器でも入れるような長い箱と黒い服を抱えていて、
「ああ、やっと来た」とその二つをバロンとベリルに乱暴に押し付けてくる。
馬車の小窓の下は小さな机になっていて、そこにタブレットがセットされていた。
エドワードが座っている様子が映し出されていた。
「ラリーさん、会見はどこまで?」
バロンが聞くと、ラリーは、王立警ら隊の軍服を脱ぎながら、「今は、まだだ」と答える。
「さっきまで、ライトの調子がおかしくてさ。点滅したり消えたりして、会見どころじゃなかったんだ。で、今度は、マイクの調子がおかしくて。今までの王室の定例会見でセッティングでこんなことは無かったんだけどね」
「それってアン女王かな?」
とベリルが凍えて言う。
バロンは頷いた。
その間も、ラリーの着替えは続く。目の前に、鍛え上げられたラリーの身体が晒される。白くて日焼けはまったくしていないが、腹筋は綺麗に筋が入って割れていて、二の腕の力こぶも盛り上がっている。
「すげー。現役兵士の身体!」
ベリルが目を輝かせてラリーの身体を見ている。
「見すぎっ!」
ちょっと怒ったラリーは、見慣れないアサルトスーツに着替え始めた。
バロンは眉根を曇らせる。
「そのアサルトスーツ、特殊警備兵のものですよね」
「ちょっと貸してって言って、借りてきた。いいよって返事はなかったけどね」
特殊警備兵は、議会、議員を守る専門の兵で、いわばケビンの手足だ。当然、王立警ら隊とは犬猿の仲。
貸し借りなんてできる間柄ではない。
つまり、警備にあたっていた特殊警備兵を捕まえ気絶させるなどして、強奪してきたのだろう。
違法娼館にいたとき押し入って来たラリーは、すこし頭の線が切れたような感じでとても怖かったのを覚えている。
強奪ぐらい、やりかねない。
着替え終わったラリーは今度は箱をあけた。
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