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第十章 バロン

218:笑わないでくださいよ。こっちは真剣です

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起き上がって、エドワードの頭上に周り、足を伸ばした。
そして、彼の頭を腿の上に乗せる。
「俺が王宮に来たばかりのとき、倒れてしまったことがありました。看病しながら、殿下は言ってくださいました。ストレスや一番弱いところに出るって。殿下が、一時、過呼吸に苦しんだり、嘔吐を繰り返したのも、きっと、そのせいだったんです。吐き出したかったんですよ」
バロンは、エドワードの冷えた頬の触れる。
「そうだな。この十数年、腹にためにためたものをアーサーやダニエルに吐き出して、すっとした。けど、バロン。お前には違う。単なる甘えだ」
「殿下の辞書にも、甘えって言葉が入っているんですね」
「みたいだな。物心ついて、初めて使った単語のような気がする」
頬を擦り続けると、エドワードは気持ちようさそうに目を瞑った。
「間もなく、会見が始まる」
「はい」
「何をどう話せばいいのか、全く計算ができん」
「だから、頭を冷やしていたんですか?」
エドワードが頷く。
「大昔から今まで、世界に王国が出来ては滅んでいった。今回の会見が不味い結果になったら、私もこの城を明け渡すことになるかもしれない。それは、今日明日のことではないかもしれないが……。数年後、いや、数か月後にやってきたら、そのとき、お前はどうする?」
「どうするってそんな」
エドワードが、フッと視線をそらし、「まあ、お前は自由の身になれるのだから、いいことの方が多いか」と言いながら身体を起こしかけた。
バロンは、エドワードに掴みかかる。
「殿下に、ついていくに決まっているじゃないですかっ!俺、貴方がマスコミに晒してくれたお蔭で、どこにも隠れる場所が無いんですから」
「そうだったな。でも、城のない王について行ってもみじめなだけだぞ」
「アーサー様やダニエル様が、きっと手を差し伸べてくださいます。彼らが、無理というなら、俺が男娼に復帰して殿下を養います。殿下のヴァレットをしていたのですから、ちょっとはプレミアが付くと思うし……って、殿下、殿下、聞いていますか?」
エドワードが目を瞑ったままなので、肩を揺さぶると、彼は急に「フハハハッ」と笑い出した。
「私を養うために、男娼に復帰するなんて、お前はタフなドメインだ」
「笑わないでくださいよ。こっちは真剣です」
「ああ、すまん。こっちも真剣に嬉しい」
エドワードが両手を上げ、バロンの首に手を回してきた。
バロンは背中をかがめる。
二人の顔が近くなった。
「会見で、何をどう話せばいいのかわからないと、殿下、悩んでおられますよね。お気持ちがスッキリする回答を選べばいいんじゃないですか?それが真実でも嘘でも会見がどんな結果になったって、俺は貴方をずっと支えます」
バロンはさらに背中をかがめて、エドワードに唇を重ねた。
それは、一瞬のことだったが、バロンの一生の中で、一番勇気を出した瞬間だった。
エドワードがバロンの頭をクシャッと撫でてから起き上がる。
彼が横たわっていたところは、体温で少し雪が解けていて、青草が顔を覗かせていた。
冬の次には春がやってくるのだなと思いながら、バロンも立ち上がり、エドワードの後を追いかけた。
会見場は王宮の入り口のすぐ傍にあった。
五分前に、エドワードとバロンは会場入りする。
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