219 / 281
第十章 バロン
218:笑わないでくださいよ。こっちは真剣です
しおりを挟む
起き上がって、エドワードの頭上に周り、足を伸ばした。
そして、彼の頭を腿の上に乗せる。
「俺が王宮に来たばかりのとき、倒れてしまったことがありました。看病しながら、殿下は言ってくださいました。ストレスや一番弱いところに出るって。殿下が、一時、過呼吸に苦しんだり、嘔吐を繰り返したのも、きっと、そのせいだったんです。吐き出したかったんですよ」
バロンは、エドワードの冷えた頬の触れる。
「そうだな。この十数年、腹にためにためたものをアーサーやダニエルに吐き出して、すっとした。けど、バロン。お前には違う。単なる甘えだ」
「殿下の辞書にも、甘えって言葉が入っているんですね」
「みたいだな。物心ついて、初めて使った単語のような気がする」
頬を擦り続けると、エドワードは気持ちようさそうに目を瞑った。
「間もなく、会見が始まる」
「はい」
「何をどう話せばいいのか、全く計算ができん」
「だから、頭を冷やしていたんですか?」
エドワードが頷く。
「大昔から今まで、世界に王国が出来ては滅んでいった。今回の会見が不味い結果になったら、私もこの城を明け渡すことになるかもしれない。それは、今日明日のことではないかもしれないが……。数年後、いや、数か月後にやってきたら、そのとき、お前はどうする?」
「どうするってそんな」
エドワードが、フッと視線をそらし、「まあ、お前は自由の身になれるのだから、いいことの方が多いか」と言いながら身体を起こしかけた。
バロンは、エドワードに掴みかかる。
「殿下に、ついていくに決まっているじゃないですかっ!俺、貴方がマスコミに晒してくれたお蔭で、どこにも隠れる場所が無いんですから」
「そうだったな。でも、城のない王について行ってもみじめなだけだぞ」
「アーサー様やダニエル様が、きっと手を差し伸べてくださいます。彼らが、無理というなら、俺が男娼に復帰して殿下を養います。殿下のヴァレットをしていたのですから、ちょっとはプレミアが付くと思うし……って、殿下、殿下、聞いていますか?」
エドワードが目を瞑ったままなので、肩を揺さぶると、彼は急に「フハハハッ」と笑い出した。
「私を養うために、男娼に復帰するなんて、お前はタフなドメインだ」
「笑わないでくださいよ。こっちは真剣です」
「ああ、すまん。こっちも真剣に嬉しい」
エドワードが両手を上げ、バロンの首に手を回してきた。
バロンは背中をかがめる。
二人の顔が近くなった。
「会見で、何をどう話せばいいのかわからないと、殿下、悩んでおられますよね。お気持ちがスッキリする回答を選べばいいんじゃないですか?それが真実でも嘘でも会見がどんな結果になったって、俺は貴方をずっと支えます」
バロンはさらに背中をかがめて、エドワードに唇を重ねた。
それは、一瞬のことだったが、バロンの一生の中で、一番勇気を出した瞬間だった。
エドワードがバロンの頭をクシャッと撫でてから起き上がる。
彼が横たわっていたところは、体温で少し雪が解けていて、青草が顔を覗かせていた。
冬の次には春がやってくるのだなと思いながら、バロンも立ち上がり、エドワードの後を追いかけた。
会見場は王宮の入り口のすぐ傍にあった。
五分前に、エドワードとバロンは会場入りする。
そして、彼の頭を腿の上に乗せる。
「俺が王宮に来たばかりのとき、倒れてしまったことがありました。看病しながら、殿下は言ってくださいました。ストレスや一番弱いところに出るって。殿下が、一時、過呼吸に苦しんだり、嘔吐を繰り返したのも、きっと、そのせいだったんです。吐き出したかったんですよ」
バロンは、エドワードの冷えた頬の触れる。
「そうだな。この十数年、腹にためにためたものをアーサーやダニエルに吐き出して、すっとした。けど、バロン。お前には違う。単なる甘えだ」
「殿下の辞書にも、甘えって言葉が入っているんですね」
「みたいだな。物心ついて、初めて使った単語のような気がする」
頬を擦り続けると、エドワードは気持ちようさそうに目を瞑った。
「間もなく、会見が始まる」
「はい」
「何をどう話せばいいのか、全く計算ができん」
「だから、頭を冷やしていたんですか?」
エドワードが頷く。
「大昔から今まで、世界に王国が出来ては滅んでいった。今回の会見が不味い結果になったら、私もこの城を明け渡すことになるかもしれない。それは、今日明日のことではないかもしれないが……。数年後、いや、数か月後にやってきたら、そのとき、お前はどうする?」
「どうするってそんな」
エドワードが、フッと視線をそらし、「まあ、お前は自由の身になれるのだから、いいことの方が多いか」と言いながら身体を起こしかけた。
バロンは、エドワードに掴みかかる。
「殿下に、ついていくに決まっているじゃないですかっ!俺、貴方がマスコミに晒してくれたお蔭で、どこにも隠れる場所が無いんですから」
「そうだったな。でも、城のない王について行ってもみじめなだけだぞ」
「アーサー様やダニエル様が、きっと手を差し伸べてくださいます。彼らが、無理というなら、俺が男娼に復帰して殿下を養います。殿下のヴァレットをしていたのですから、ちょっとはプレミアが付くと思うし……って、殿下、殿下、聞いていますか?」
エドワードが目を瞑ったままなので、肩を揺さぶると、彼は急に「フハハハッ」と笑い出した。
「私を養うために、男娼に復帰するなんて、お前はタフなドメインだ」
「笑わないでくださいよ。こっちは真剣です」
「ああ、すまん。こっちも真剣に嬉しい」
エドワードが両手を上げ、バロンの首に手を回してきた。
バロンは背中をかがめる。
二人の顔が近くなった。
「会見で、何をどう話せばいいのかわからないと、殿下、悩んでおられますよね。お気持ちがスッキリする回答を選べばいいんじゃないですか?それが真実でも嘘でも会見がどんな結果になったって、俺は貴方をずっと支えます」
バロンはさらに背中をかがめて、エドワードに唇を重ねた。
それは、一瞬のことだったが、バロンの一生の中で、一番勇気を出した瞬間だった。
エドワードがバロンの頭をクシャッと撫でてから起き上がる。
彼が横たわっていたところは、体温で少し雪が解けていて、青草が顔を覗かせていた。
冬の次には春がやってくるのだなと思いながら、バロンも立ち上がり、エドワードの後を追いかけた。
会見場は王宮の入り口のすぐ傍にあった。
五分前に、エドワードとバロンは会場入りする。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!
きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー
蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。
下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる