上 下
216 / 280
第十章 バロン

216:殿下、お待たせしました

しおりを挟む
「ち、違うよ。そんなじゃないよ。セドリック、何を聞いて……」
バロンが慌てているうちに、通信が途切れてしまった。
仕方なく、バロンは部屋に戻る。
部屋では、ベリルがスチュワートから貰ったテロのときの写真を整理し、茶封筒に入れていた。
「どうだって?悪い友達、何か手があるって?」
「潜入できそうだよ。必要な物を十二時に配送ドローンが運んでくるって」
「あと三十分か」
ベリルは壁の時計を見て言う。
「なあ、バロン。アーサーに会いに行ってもいいか?十二時にはここに戻るからさ」
「もちろんだよ。でも、ベリルがアーサー様の傍を離れがたくなってしまったら、俺だけでいくから。でも、このことは誰にも話さないで」
「何言ってんだよ、見くびんな」
ベリルは、写真が入った茶封筒をバロンに渡すと部屋を出て行く。
入れ替わりに、キースが部屋に入って来た。
「バロン。殿下がおよびです」
「は、はい」
バロンは、ギュッと茶封筒握りしめた。
「どちらに伺えば?」
キースに聞くと、彼は「王宮の裏庭だそうです」と答えた。
 
小雪がちらつく裏庭に、スチュワートから渡された写真を持って走って向かう。
遠くに、雪の地面に分厚いコートを羽織ったまま寝転がる男の姿が見えた。
「殿下、お待たせしました」
バロンは傍らにしゃがみ込む。
ズボンを履いていても、膝がひんやりした。
「何をされているのですか?」
すると、エドワードが目を瞑ったまま、答えた。
「頭を冷やしている」
「そうですか、じゃあ、俺も」
バロンはエドワードの隣りに寝転んだ。
空からは、フワフワと小雪が降ってきて、バロンの鼻や頬の上で溶けて行った。
「何で、黙っている?」
「殿下が何も喋りたくなさそうなので」
すると、エドワードが目を細め、鼻を鳴らした。
「そのとおりだ。正直、このまま消えてしまえたらどんなにいいだろうと思う」
「はい」
「そんなこと言ってはいけないですよ、頑張りましょう。と安い励ましをしないところが、お前らしい」
「喋るの、下手なんです」
「私もだ」
「これ……お渡ししてもいいですか?」
バロンは、スチュワートから預かった写真をエドワードに渡した。
エドワードは写真を見ながら言う。
「スチュワートか?」
「はい。最新のソフトで、人物の視線が分かる動画も頂きました。ここに入っています」
とバロンは右手の付け根を左手の人差し指で示す。
「ケビン首相の視線は、十名の空港職員が駆け付けた際、テロリスト三名を捉えてしました」
「ネットフィリップスの奴、パパラッチのくせに、そこまでやってくれたか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

助けの来ない状況で少年は壊れるまで嬲られる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

処理中です...