【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

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第十章 バロン

215:バロン、変わったな。その強気なところ、本気で惚れちまう

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『俺は勲章授与されたハッカーセドリックだぞ?今、バルコニーに立っているだろう?
特別区で通信制限がかかっているが、一瞬の解除は朝メシ前だ』
「分かった。受け取り次第、すぐ議会に向かう。ねえ、もう一つ、頼まれ事をいいかな?」
『なんなりと』
「配送ドローン一万羽が、ハイウィカムから飛び立ってクラッシックシティーに向かうみたいなんだ。ケビン首相が飛行区域を制限していないか確認して欲しい」
『それ、サーシャって男が関わっているだろう?』
「うん。ラリーさんがそう言っていた」
『誰?』
「王立警ら隊の副隊長。サーシャの保護に向かっている」
『へえ、変人サーシャがねえ』
通信の向こう側で、セドリックは楽し気に笑っている。
『あいつは耐用末期の配送ドローンを、オールドドメインにスクリーニングして延命を図るみたいに、緻密に修理して大切にしている。貸すとか売るとかそういう契約を結んだにしろ、それを履行する気があると思うか?』
「それは、困る。一万羽に配送ドローンが飛んでこないと分かったら、ルシウスは、すぐはスクリーニングされてしまう」
『ルシウス?』
「あっ、忘れてくれ」
バロンが言うが、セドリックから返答はない。
代わりに、カタカタという音が聞こえてくる。
『おお、美形だ。へえ、鹿の園出身の王か。美形ぶりも納得。今は、ダニエル元伯爵が所有。で、彼がどうしたって?ここまでバレてるんだ、全部、話ちゃえよ」
「セドリック。時間がないんだ。荷物の準備を」
『今、している。バロンが全容を話すなら、サーシャに、確実にクラッシックシティーまで配送ドローンを飛ばさせよう』
「先に、その方法を教えて」
『バロン、変わったな。その強気なところ、本気で惚れちまう』
「頼むよ、セドリック」
『その切なげな声に免じて、話してやる。ハイウィカムの変人サーシャは、修理屋兼ECゲームの賞金稼ぎだ。耐用末期の配送ドローンは、部品も品薄で、修理して売ったとしても赤字になる。ECゲームは、英国じゃあ、まだまだマイナーだが、アメリカやロシアでは盛んで、優勝者の賞金は十万ユーロから百万ユーロ(約一千三百万円から約一億三千万円)クラスのものがゴロゴロある』
「議会でゲームをするということ?」
『いいや。特別区の議会にどれだけ配送ドローンを近づけることができるか競おうぜって誘う。配送ドローンさえ壊れなければ、あいつはそれでいいんだ。ゲーマーの性で絶対に乘ってくるはずだ』
「分かった。こちらはとにかく、配送ドローンがクラッシックシティーに向かってくれればそれでいいんだ。一万羽全てのドローンに、ルシウスのボイスメモが括り付けられている」
『は?ボイスメモ』
「軍のラボでケビン首相に目覚めさせれ、鹿の園に売られ、彼を待ち続けた悲しい記憶が記録されている。そして、俺やベリルも彼には、悲しい思いをさせられた。けど、復讐したいわけじゃないんだ。このままで、ケビン首相にオールドドメインも人間も煽られて、国民投票が開かれ、殿下が国王になれないかもしれない。多分、その時、本当の地獄の幕開けになる」
『了解。結論として、バロンがエドワード王太子殿下にベタぼれで、俺はのろけられたってことだな』
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