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第九章 ベリル
198:話を聞いて、あんたが謝ることじゃないってことは分かった
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「あんたには、なんとも言いようがない」
すると、ラリーが手に持っていたケース入りのUSBスティックを、ソファーの前のテーブルに置いた。
「これは?」
とダニエルが聞く。
「ルシウスのものです。ラボ時代から、今までを記録した、ボイスメモ形式の日記だそうです」
「ラボ?」
「ダニエル元伯爵でも、ご存知ありませんか?」
「ルシウスの前所有者はイーサン伯爵だ。スクリーニングされているから、そいつの記憶はないはずだぜ」
すると、ラリーが説明する。
「確かに記憶はないでしょう。イーサン伯爵は、鹿の園ができた当初、オールドドメイン所有者に名義貸しを行っていた方なのですから」
「待て」
そこに、エドワードが口を挟む。
「バロン、そしてシファーチェも、前所有者はイーサン伯爵だったはずだ」
ラリーが頷く。
「イーサン伯爵に名義を借りていた所有者は大勢いました。それを正しい所有者に登録し直したところ、残ったのが、シファーチェ、ルシウス、バロン。そして、クリストファーというオールドドメインです」
バロンが口を開いた。
「もしかして、そのクリストファーって、鹿の園の受付係のクリストファーさんですか?」
「ああ」とラリーは頷く。
「殿下、言い訳がましいのですが、最初から説明させてください。最初、僕とルシウスは、王宮を出て、ダニエル元伯爵の館に行きました。そこで、大量のUSBスティックとケースを受け取りました。数にして一万個です。その後、ハイウィカムへ」
「随分、西に移動したな」
とエドワードが言う。
「はい。そこで修理屋のサーシャという男から一万羽の配送ドローンを購入したルシウスは、このケースに入ったUSBスティックをくくりつけました。そこには忘れたくない記憶が入っていると。王宮に集まったオールドドメインやマスコミに自分の不幸話をバラ撒いて有名になるつもりかと聞いたら、そうだ、と。今思えば、僕が完全にダマされていたわけですが」
語るラリーに、エドワードは腕を組んで耳を傾け、ダニエルはソファーの肘掛けに、片肘をついてじっと聞いていた。
バロンはエドワードの傍らに立ち、俯いて聞いている。
そして、ベリルは、アーサーのスーツの袖を落ち着きなく掴んでいた。
「その後、どうしても会いたい客がいて、約束を果たしてもらいたいから、鹿の園へ付き合えと言われました。クリストファーが手引きをするから、僕にルシウスの売り主になれと」
「その会いたい客というのが、ケビンだったってことか?」
「シークレットの客と言われ、名前はルシウスが客の元に出発するまで伏せられてしまいました。鹿の園に再度潜入するには手間がかかるため、ルシウスについていけばクリストファーのことを知ることができると考え安易に行動してしまいました。申し訳ありません」
ゆらりとダニエルが立ち上がる。
「話を聞いて、あんたが謝ることじゃないってことは分かった」
すると、ラリーが手に持っていたケース入りのUSBスティックを、ソファーの前のテーブルに置いた。
「これは?」
とダニエルが聞く。
「ルシウスのものです。ラボ時代から、今までを記録した、ボイスメモ形式の日記だそうです」
「ラボ?」
「ダニエル元伯爵でも、ご存知ありませんか?」
「ルシウスの前所有者はイーサン伯爵だ。スクリーニングされているから、そいつの記憶はないはずだぜ」
すると、ラリーが説明する。
「確かに記憶はないでしょう。イーサン伯爵は、鹿の園ができた当初、オールドドメイン所有者に名義貸しを行っていた方なのですから」
「待て」
そこに、エドワードが口を挟む。
「バロン、そしてシファーチェも、前所有者はイーサン伯爵だったはずだ」
ラリーが頷く。
「イーサン伯爵に名義を借りていた所有者は大勢いました。それを正しい所有者に登録し直したところ、残ったのが、シファーチェ、ルシウス、バロン。そして、クリストファーというオールドドメインです」
バロンが口を開いた。
「もしかして、そのクリストファーって、鹿の園の受付係のクリストファーさんですか?」
「ああ」とラリーは頷く。
「殿下、言い訳がましいのですが、最初から説明させてください。最初、僕とルシウスは、王宮を出て、ダニエル元伯爵の館に行きました。そこで、大量のUSBスティックとケースを受け取りました。数にして一万個です。その後、ハイウィカムへ」
「随分、西に移動したな」
とエドワードが言う。
「はい。そこで修理屋のサーシャという男から一万羽の配送ドローンを購入したルシウスは、このケースに入ったUSBスティックをくくりつけました。そこには忘れたくない記憶が入っていると。王宮に集まったオールドドメインやマスコミに自分の不幸話をバラ撒いて有名になるつもりかと聞いたら、そうだ、と。今思えば、僕が完全にダマされていたわけですが」
語るラリーに、エドワードは腕を組んで耳を傾け、ダニエルはソファーの肘掛けに、片肘をついてじっと聞いていた。
バロンはエドワードの傍らに立ち、俯いて聞いている。
そして、ベリルは、アーサーのスーツの袖を落ち着きなく掴んでいた。
「その後、どうしても会いたい客がいて、約束を果たしてもらいたいから、鹿の園へ付き合えと言われました。クリストファーが手引きをするから、僕にルシウスの売り主になれと」
「その会いたい客というのが、ケビンだったってことか?」
「シークレットの客と言われ、名前はルシウスが客の元に出発するまで伏せられてしまいました。鹿の園に再度潜入するには手間がかかるため、ルシウスについていけばクリストファーのことを知ることができると考え安易に行動してしまいました。申し訳ありません」
ゆらりとダニエルが立ち上がる。
「話を聞いて、あんたが謝ることじゃないってことは分かった」
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