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第八章 ルシウス

194:そんな、恥ずかしい

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客の身分が高ければ高いほど、側近はルシウスみたいな相手にべらべらと話かけてこない。中には全く無言の者もいるから、「ついてきなさい」と一言言葉をしゃべっただけでもまともな対応を受けた方だ。
にしても、ケビンの奴。
ドメインでいっぱいの議会によく男娼なんて呼ぶよな。
と側近の後を付いて行きながらルシウスは思ったがすぐに考え直した。
ドメインでいっぱいだから、わざわざ呼んだのだ。
マスコミに議会への出入りを撮られても、言い逃れしやすいのだろう。
薄暗い階段を数階分登り、部屋に通された。
ベッドと執務机のある部屋で、一人の人間が旗を掲げ周りを大勢の人間が取り囲み喜んでいる革命の瞬間を描いた大きな絵が壁に飾られていた。
なんだか、暗い絵だ。好きじゃない。
と思いながら眺めていると、扉が開き、ケビンがやって来た。
鹿の園のオーナー室で別れて七年。それ以降はテレビやタブレットでしか見ることができなかった彼が、「やあ、夜、遅くすまないね」と言いながら、ルシウスの傍にやってくる。
再会できた喜びや感動など、美しい感情は湧き上がってこなかった。
客好みの鹿の園の王ルシウスを演じていた頃のように、冷静に彼を観察していた。
出会ってから十二年が過ぎていた。
あの頃から比べれば、彼は年を取った。
髪は薄くなり、顔にはシワやシミが出来ている。
以前、あれほど自分を求めた壮年の男は、もはや老人だ。
自分は全く姿形は変わっていないのに。
これが、オールドドメインと人間の一番の違い、いや、種をはっきりと分ける溝なのだろう。
「いいえ。呼んでいただけで光栄です」
ルシウスは、地声を隠すため、小声で囁く。
「可愛い声だ。トラフィルガーの代わりと聞いたが」
ケビンがルシウスの隣りに座ってくる。
「はい。彼が急に体調を崩してしまい、急遽ボクが。何も分からない新人で、申し訳ありません」
「構わないよ。鹿の園の子は、皆、謙虚で従順だ。フードを取ってみてもいいかね?クリストファーが、非常に美しい子だと絶賛していたから、早くその顔が見たいんだ」
「そんな、恥ずかしい」
取られそうになるフードを、ルシウスは恥ずかしがって押えてみせる。
すると、片方の手をケビンが取って、自分の股間に導いた。
「姿だけで、可憐な子だと分かる。フードから見える銀の髪も素敵だ。だから、もう、こんなになってしまっている。このところ、眠る暇もなく忙しくてね。一時でいい、君に癒されたい」
歯の浮くような口説き言葉に、ルシウスはフードを掴むのを止める。
可憐。
自分への褒め言葉に、そんなワードは無かったなと思う。
コケティッシュな格好のロゼットを褒めているのだから、それは当たり前のことなのかもしれないが、ルシウスは受け入れられない。
そんな言葉を吐く前に、果たすべきことがあるだろう、お前?
と獰猛な気分なる。
さあ、復讐開始と行こうか。
顔を露わにし、ケビンににこりと笑いかけた。
「初めまして。ロゼットといいます」
すると、ケビンは一瞬目を見開いた。
「どうされたんですか?」
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