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第八章 ルシウス

189:イキ癖を身体が覚えかけていますから、ちょうどいいかと思って

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「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
彼は、手を振って部屋を出て行った。
かつて、優越感を感じた相手に、情けを掛けられた。
彼は、昔の記憶はなくても、優しかった。
生まれ持ったオールドドメイン性を見せつけられた感じだ。
泣きたくなった。
悔しくなって目を瞑るうちにうとうとしてきた。
再び目を開けると、クリストファーが顔を覗き込んでいた。
「このタオルは、一体どこから?」
額に乗せたルシウスのタオルを見て、クリストファーが言う。
「……天井から、降って来た」
その場しのぎの嘘をつくと、クリストファーはおやおやという顔をする。
「まあ、いいでしょう」
「どこに、行っていたの?いつも、部屋にいるのに」
「寂しかったんですか?」
「そんなわけ、ないでしょ」
「あれだけ責められた後に、よくそんな口がきけますね。強情を通り越して、立派です。席を外していたのは、ミーティングがあったからですよ。貴方の初めてのお客様を決めるためのミーティングです」
「え?ボク、二週間で卒業できるの?」
ルシウスはベッドから身体を起こす。
額のタオルが腹の上に落ちた。
熱のせいで、生暖かい。
クリストファが首を振りながら言う。
「まだ、本決まりではありませんが、北欧王家の御新規登録がありました。指名はないそうので、貴方を推薦しておきました。気に入られれば、彼は貴方を暫く指名するでしょうし、お友達も紹介してくれるかもしれません。旅行や買い物につき合わせたりもするでしょう。ただ、失敗すれば次はありません。デビューは一度きりだからこそ、価値があります。気に入られなければ貴方はただの新人になり、大きなチャンスも、今後はないものと思ってください」
「あのさ。デビューの新人って、皆、王族とかがお客になるの?」
「まさか、私が強く推したからです。きっちり二週間で卒業できるように、こっちを頑張ってくださいね」
鹿の園指定のスーツから、バスローブに着替えたクリストファーが、ベッドに入ってくる。そして、秘部を触ってきた。
先ほどまで、いじくられていたそこは、ローションでぐっしょり湿っている。
「……さっきの……またやんの?」
「イキ癖を身体が覚えかけていますから、ちょうどいいかと思って」
「あの、もう、無理っていうか」
「嫌ならいいんですよ?こっちでイケるようにならなければ、お客様の前には出しません。貴方の初めてのお客様になる予定だった方は、他の男娼に回します。どうぞチャンスを逃してください」
「……」
黙っていると、クリストファーがルシウスから離れた。
ここで怒らせたら、多分、二週間での卒業が延々と伸びていく。
ルシウスは直感した。
「やりますっ」
だか、クリストファーは無言だ。
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