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第八章 ルシウス

185:お風呂を出たら、朝食にしましょう

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急に右の腿を後ろから掴まれた。ソープのぬめりが、おかしな快感を連れてくる。
「前、触りたいですか?」
バスルームにクリストファーの声が反響する。
「慣れなくて、今は辛いでしょうが、我慢すればもっと気持ちがいい感覚を得られます」
そんなの、要らない。
身体を重ねるのは嫌いじゃないが、快楽を突き詰めるのは、ルシウスにとってはもう恐怖でしかなかった。
身体と髪を洗われ、シャワーブースの前で少し待たされる。
クリストファーが、自分の身体と髪を洗っていた。
「何ですか?また、ジロジロ見て」
背中を向けているのに、クリストファーが聞いてきる。
「別に」
同じ男のドメインなのに、自分とは違う大きな背中だ。
でも、悔しいから、「敵わない」、なんて思ったとは言はない。
「さて、バスタブにお湯が溜まったから入りましょうか?」
髪から垂れた雫を鬱陶しがって、髪をオールバックにしながらクリストファーが言う。
彼が先に入ってしまったので、バスタブにはもうほとんどスペースが無い。
さっさと入らなければまた何かを言われるだろう。
かと言って、くっつくのは嫌だ。
結果、端っこにルシウスは小さく身体を丸める結果になる。
「そんなことしても意味がないって分かっているでしょう。こちらに」
ウエストに手を回され、簡単に持ち上げられ、彼の足の間に入る羽目になった。
「もたれてください。そう上手」
言う通りにして、目を瞑る。
ああ、嫌だ。
昨晩から、今さっきまで目まぐるしかったから、考える余裕が無かったが、本当に、こんな場所でやっていけるのか不安になる。
泣いてしまいそうになる。
すると、肩を抱かれた。
「お風呂を出たら、朝食にしましょう」
ギュッと抱かれたことに、なぜか安心した。
この腕はケビンじゃないのに。
鹿の園の教育係なのに。
いや、同じラボの……。
「クリストファー」
「何でしょう?」
もしかして、ラボのこと、覚えている?
そう聞きたい。
でも、怖くて聞けやしない。
いまやルシウスは、完全にクリストファーの手のひらの上に乗せられている。
彼の機嫌一つで、教育という責め苦は、何十倍にも辛くなることが予想できた。
風呂を出て、髪を乾かされ、また新しいバスローブを着せられる。
クリストファーもバスローブを着た。ずっと部屋にいるつもりらしい。
二週間。いや、あと十三日。耐えられるだろうか。
精神も身体も……。
ルシウスは暗澹たる気持ちで、ベッドの端に座った。
「ルシウス、どうぞ」
ベッドに置かれた朝食の前に座ったクリストファーが、パンをちぎってルシウスの口元に持ってくる。
「これを外してくれれば、自分で」
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