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第八章 ルシウス

175:尊い感情のことだ

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「バロンやクリストファーには秘密だからね」と囁かれるのが、心地よくてたまらなかった。
その度に優越感が溢れ、「ボクが一番ケビンに可愛がられている」と実感するのが、何よりも気持ちが良かった。
だって、ケビンがルシウスの膝に顔をうずめながら言うのだ。
「ああ。ルシウス。こんな、気持ちは初めてだ。子供の頃、好きだった女優が年老いて余りにも醜くなっていたから、いたずら心で若返らせてやると騙して核細胞データを提出させ、性別を変えて試しに君を造った。正直、すぐ、廃棄するか、鹿の園に送るつもりだった。けれど、あまりにも美しすぎる。その女優のあだ名が悪魔だったからそのまま付けたが、君の方が素晴らしい」
ケビンの告白は、自分に夢中なのだとルシウスを調子付かせた。
止める研究者を振り払って、ケビンはルシウスを自分の館に連れて行った。
カーテンを引かず、月と星の光だけの中、大きなベッドでルシウスはケビンに抱かれた。
この手の行為は知っていた。
何週間も自宅に帰れない男女の研究者が、発情してラボのトイレや物陰で身体を重ね合うのを見たことがあるルシウスは、当然、ケビンも自分に同じことをしてくるのだろうなと思っていたからだ。
未知の体験は怖かったが、興味が勝った。
裸にされ、身体中、余すことなく口づけを受けるのは、頬を触れる以上に気持ちがいいことだった。
未開発な尻の孔を丹念に舐められ、指を入れて解されて、何時間もかけてようやく繋がった。
面倒だし、痛い。
のしかかってくるケビンの体重には重いし、興奮している彼からは汗も垂れてくる。
自分はひっくり返ったカエルのように足を開いた格好で、孔を晒して彼の雄を受け入れている。
なのに、こんなに満ち足りた気分は何なんだ?
ハアハアと耳元で荒い息をしているケビンに、ルシウスは聞いた。
「ねえ、ケビン。こういうこと、クリストファーともする?ケビンともする?」
「しない。君だけだ」
その言葉には何の保証もない。
けれど、ルシウスの身体には優越感がほとばしっていた。
獣の交尾のように、ケビンに尻を向けて後ろから犯されたり、身体を逆向きにして相手の雄を口淫し合ったり。
もともとこの手の行為に、ルシウスの本体は長けていたのか、ルシウスにも抵抗はなかった。むしろ気持ちのいい遊びを手に入れた気分だった。
「愛しているよ、ルシウス」
腰を激しく動かしながら、ケビンはよくそう言った。
「愛?」
「尊い感情のことだ」
「それは。ボクだけへの感情?」
「そうだよ」
愛している。
何といい言葉なのだろう。
言われるたびに、ルシウスは恍惚となった。
それからというもの、ケビンは、館からラボにルシウスを返すことはなかった。
ある夜、抱かれている最中に彼の口から、バロンとクリストファーは鹿の園に連れて行かれたと聞いた。
新しいドメインがラボで目覚め、軍事非適格の二体を置いておくには手狭になったからだそうだ。
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