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第七章 ラリー
172:たったそれだけのことが、オールドドメインとして辛い生を生きる希望の光だったんですよ
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「そうしたら彼は、ボイスメモを残せと教えてくれました。私はその道を選び、バロンは覚えているのが辛いからとボイスメモを残さずスクリーニングを受けました。そして、ルシウスはそんなことを知りもしませんでした。何故なら、彼だけがケビンの元に残されたからです」
すると、今度は、まるで、楽しい思い出話をするかのように、クリストファーは笑い出す。
「けれど、数年後、ルシウスも鹿の園に送られてきました。その頃の鹿の園は、初期に頃に比べて驚くほどの発展を遂げていて、綺麗なオールドドメインを一体でも多く求めていました。国防省を辞め政治家になるには、多大な資金がいるケビンとって、ルシウスを鹿の園に売るのは断腸の思いだったのでしょう。そして、センチメンタリズムなところがあるようで、ルシウスに自分を覚えていて欲しくて、スクリーニングをしないまま、鹿の園に連れてきたんです」
クリストファーの顔には、はっきりと羨ましいという感情が浮かんでいた。
「ケビンは教育係をしていた私に「初めまして。よろしく」と言いました。しかし、私はボイスメモで彼が元所有者であることを知っていました。その時は、まるで映画を観ている気分で実感はありませんでしたけれどね」
ここで、クリストファーはフッと息を付く。
「でも、彼は私をスクリーニングし、記憶がないから「初めまして。よろしく」と言った。そのことがどんどん私には堪えてきて、陰で泣いてしまいました。本当にほんの少し彼との記憶が残っていたのだと思います。私はルシウスを憎く思いながらも、彼にボイスメモの存在を教えました。いつかケビンは、センチメンタリズムから解放されて、ルシウスのスクリーニングをしにやってくる。忘れてしまっても、ボイスメモがあれば、思い出せる可能性が高いと、ケビンと覚えている限りのことをボイスメモに残すよう言いました」
ラリーはポケットから、サーシャの山小屋で一つだけ抜き取ったUSBスティックを出した。
「それは、これだな?」
「どうして貴方が?」
「いや、これだけじゃない。あと、九千九百九十九個これが、配送ドローンにくくり付けられている」
そこで、ラリーはハッとする。
「ルシウスのシークレットの客って誰だ?」
「お答えできません」
とクリストファーは静かに言う。唇の端が少し上がっていた。
―--それなりの地位にある、つまらない相手だよ。もしかしたら雲隠れしてしまうかもしれないからさ、約束を絶対に果たしてもらいたいんだ。
という言葉がラリーの脳内に蘇る。
エドワードとケビンは、今、やり合っている。
今のところ、ケビンが優勢だが、エドワードは不正に複製されたベリルという強い手駒を持っている。
彼は元鹿の園の王という過去があるから、自分の複製がそんなことをしていたという事実をプライドの高いエドワードがそうそう公表するとは思えないが、でもいざとなったら、自分の身を切ってでも、ケビンに大ダメージを与えようとするだろう。
そうすれば、ケビンは、政界から、いや、表社会から消えざるを得ない。
「ルシウスは、ケビンとの思い出を、時期が来たらクラッシックシティーにバラ撒く気か?」
「約束が果たされれば、それはありませんよ。あの子はそういう子です」
「約束の内容は?そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか?」
「王のランクになったら、がんばったなという手紙を送るという約束です」
「たったそれだけのことで?」
「ええ、たったそれだけのことが、オールドドメインとして辛い生を生きる希望の光だったんですよ」
すると、今度は、まるで、楽しい思い出話をするかのように、クリストファーは笑い出す。
「けれど、数年後、ルシウスも鹿の園に送られてきました。その頃の鹿の園は、初期に頃に比べて驚くほどの発展を遂げていて、綺麗なオールドドメインを一体でも多く求めていました。国防省を辞め政治家になるには、多大な資金がいるケビンとって、ルシウスを鹿の園に売るのは断腸の思いだったのでしょう。そして、センチメンタリズムなところがあるようで、ルシウスに自分を覚えていて欲しくて、スクリーニングをしないまま、鹿の園に連れてきたんです」
クリストファーの顔には、はっきりと羨ましいという感情が浮かんでいた。
「ケビンは教育係をしていた私に「初めまして。よろしく」と言いました。しかし、私はボイスメモで彼が元所有者であることを知っていました。その時は、まるで映画を観ている気分で実感はありませんでしたけれどね」
ここで、クリストファーはフッと息を付く。
「でも、彼は私をスクリーニングし、記憶がないから「初めまして。よろしく」と言った。そのことがどんどん私には堪えてきて、陰で泣いてしまいました。本当にほんの少し彼との記憶が残っていたのだと思います。私はルシウスを憎く思いながらも、彼にボイスメモの存在を教えました。いつかケビンは、センチメンタリズムから解放されて、ルシウスのスクリーニングをしにやってくる。忘れてしまっても、ボイスメモがあれば、思い出せる可能性が高いと、ケビンと覚えている限りのことをボイスメモに残すよう言いました」
ラリーはポケットから、サーシャの山小屋で一つだけ抜き取ったUSBスティックを出した。
「それは、これだな?」
「どうして貴方が?」
「いや、これだけじゃない。あと、九千九百九十九個これが、配送ドローンにくくり付けられている」
そこで、ラリーはハッとする。
「ルシウスのシークレットの客って誰だ?」
「お答えできません」
とクリストファーは静かに言う。唇の端が少し上がっていた。
―--それなりの地位にある、つまらない相手だよ。もしかしたら雲隠れしてしまうかもしれないからさ、約束を絶対に果たしてもらいたいんだ。
という言葉がラリーの脳内に蘇る。
エドワードとケビンは、今、やり合っている。
今のところ、ケビンが優勢だが、エドワードは不正に複製されたベリルという強い手駒を持っている。
彼は元鹿の園の王という過去があるから、自分の複製がそんなことをしていたという事実をプライドの高いエドワードがそうそう公表するとは思えないが、でもいざとなったら、自分の身を切ってでも、ケビンに大ダメージを与えようとするだろう。
そうすれば、ケビンは、政界から、いや、表社会から消えざるを得ない。
「ルシウスは、ケビンとの思い出を、時期が来たらクラッシックシティーにバラ撒く気か?」
「約束が果たされれば、それはありませんよ。あの子はそういう子です」
「約束の内容は?そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか?」
「王のランクになったら、がんばったなという手紙を送るという約束です」
「たったそれだけのことで?」
「ええ、たったそれだけのことが、オールドドメインとして辛い生を生きる希望の光だったんですよ」
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