171 / 280
第七章 ラリー
171:ならば、一緒に恨もうというのも、少し違うような
しおりを挟む
「何だって?」
「しかも、本人には何も知らされずこっそりとです。採取先は軍の息がかかった病院です。それを指示したのは……」
クリストファーは、暫く口ごもる。
「言ってくださいよ。僕の鼻先まで餌を投げておいて、お預けというのは卑怯だ」
「そうですね」
クリストファーは言っていいものかどうか、迷っているようだ。
「言わないなら、僕が言ってしまいますよ?」
すると、クリストファーが灰色の目で、ラリーを見つめた。
「僕は、人間だったころ、兵士として第三次世界大戦に参戦しました。今の軍と聞くと、殿下の顔が浮かぶけど、昔の軍と聞くと、嫌な男の顔が浮かぶんです。核細胞データを非合法に集める指示したのは、もしかして国防総省長官だったケビンじゃないのかい?」
「どうして、その人の名を上げたのですか?オールドドメイン製造に関わった軍人は、他にもいるでしょうに」
「軍調査委員会」
ラリーは、息を吐きながら言った。冷静になるために紅茶を一口、飲もうとしたがティーカップのなかの紅茶が、水面のように揺れている。
「それが、何か?」
「十五年前のテロ情報は、アンプルでインストール済み?」
ラリーが聞くと、クリストファーが「ええ」と頷く。
「当時、国防総省長官だったケビンは、王家とその他一家の避暑地にわざわざ迎えに行った。そこでテロリストが空港職員に扮していて、テロが起ったわけだけれど、ケビンはその情報を事前に知っていて防がなかったという噂がある。だから、軍調査委員会が動きだした。軍とは別組織で動いていて、いくら国防総省長官のケビンでも手出しできない聖域だ。彼らは普通の兵士に成りすまし調査を行う。テロ事件の調査は、第三次世界大戦中でも行われてた」
ラリーは息もつかず一気に喋る。
「ケビンには、誰が兵士で、誰が軍調査委員会の人間なのかは分からなかったが、消すのは簡単だった。疑わしい人間に無謀な指令を与え戦死させればいい話だ。指令をクリアして戻ってくれば、それはそれで彼のポイントになるし、人間の兵士が死んだって、オールドドメインやニュードメインという新しい兵士がいる。そうやって数百人が死んでいったよ」
「その中には、貴方も含まれいると?そういうことですか?」
「まあ、ね」
「ならば、一緒に恨もうというのも、少し違うような」
クリストファーは、薄く笑ってソファーから腰を上げ、ラリーの頬をヒタヒタと触る。
「彼は、こうやって、可愛がってくださいました。私は、彼が大好きでした。しかし、彼の中では三体のドメインに優劣があったみたいです。溺愛されたのはルシウス。放置されたのは、私とバロン」
そうクリストファーに語られて、嬉しそうなルシウスと、悲しそうな二人の様子が
ラリーの脳内に絵のように浮かび上がる。
「ケビン首相は指示役で、実際に活動したのは、ダニエル元伯爵の御父様です。彼は、私達二人を不憫に思ったのでしょう。ケビン首相のかわりに、可愛がってくださいました。しかし、軍は軍事用ドメインの開発を急ピッチで進めており、オールドドメインの数は増加していました。私もバロンもルシウスも、皆、軍事非適格なオールドドメインでした。そういうオールドドメインは次々とできたばかりの鹿の園に送られ、記憶を削除され男娼として生きるのだと軍関係者の井戸端会議を聞いて知っていたので、私はダニエル元伯爵の御父様に訴えました。ここでの思い出を忘れたくないと」
悲し気に語っていたクリストファーは、無理やりというように唇の端を少し引き上げた。
「しかも、本人には何も知らされずこっそりとです。採取先は軍の息がかかった病院です。それを指示したのは……」
クリストファーは、暫く口ごもる。
「言ってくださいよ。僕の鼻先まで餌を投げておいて、お預けというのは卑怯だ」
「そうですね」
クリストファーは言っていいものかどうか、迷っているようだ。
「言わないなら、僕が言ってしまいますよ?」
すると、クリストファーが灰色の目で、ラリーを見つめた。
「僕は、人間だったころ、兵士として第三次世界大戦に参戦しました。今の軍と聞くと、殿下の顔が浮かぶけど、昔の軍と聞くと、嫌な男の顔が浮かぶんです。核細胞データを非合法に集める指示したのは、もしかして国防総省長官だったケビンじゃないのかい?」
「どうして、その人の名を上げたのですか?オールドドメイン製造に関わった軍人は、他にもいるでしょうに」
「軍調査委員会」
ラリーは、息を吐きながら言った。冷静になるために紅茶を一口、飲もうとしたがティーカップのなかの紅茶が、水面のように揺れている。
「それが、何か?」
「十五年前のテロ情報は、アンプルでインストール済み?」
ラリーが聞くと、クリストファーが「ええ」と頷く。
「当時、国防総省長官だったケビンは、王家とその他一家の避暑地にわざわざ迎えに行った。そこでテロリストが空港職員に扮していて、テロが起ったわけだけれど、ケビンはその情報を事前に知っていて防がなかったという噂がある。だから、軍調査委員会が動きだした。軍とは別組織で動いていて、いくら国防総省長官のケビンでも手出しできない聖域だ。彼らは普通の兵士に成りすまし調査を行う。テロ事件の調査は、第三次世界大戦中でも行われてた」
ラリーは息もつかず一気に喋る。
「ケビンには、誰が兵士で、誰が軍調査委員会の人間なのかは分からなかったが、消すのは簡単だった。疑わしい人間に無謀な指令を与え戦死させればいい話だ。指令をクリアして戻ってくれば、それはそれで彼のポイントになるし、人間の兵士が死んだって、オールドドメインやニュードメインという新しい兵士がいる。そうやって数百人が死んでいったよ」
「その中には、貴方も含まれいると?そういうことですか?」
「まあ、ね」
「ならば、一緒に恨もうというのも、少し違うような」
クリストファーは、薄く笑ってソファーから腰を上げ、ラリーの頬をヒタヒタと触る。
「彼は、こうやって、可愛がってくださいました。私は、彼が大好きでした。しかし、彼の中では三体のドメインに優劣があったみたいです。溺愛されたのはルシウス。放置されたのは、私とバロン」
そうクリストファーに語られて、嬉しそうなルシウスと、悲しそうな二人の様子が
ラリーの脳内に絵のように浮かび上がる。
「ケビン首相は指示役で、実際に活動したのは、ダニエル元伯爵の御父様です。彼は、私達二人を不憫に思ったのでしょう。ケビン首相のかわりに、可愛がってくださいました。しかし、軍は軍事用ドメインの開発を急ピッチで進めており、オールドドメインの数は増加していました。私もバロンもルシウスも、皆、軍事非適格なオールドドメインでした。そういうオールドドメインは次々とできたばかりの鹿の園に送られ、記憶を削除され男娼として生きるのだと軍関係者の井戸端会議を聞いて知っていたので、私はダニエル元伯爵の御父様に訴えました。ここでの思い出を忘れたくないと」
悲し気に語っていたクリストファーは、無理やりというように唇の端を少し引き上げた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…




オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる