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第七章 ラリー

164:可愛い子ぶってもダメ!

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プラスティックケースをポケットに入れるところを見られてしまった。
だが、サーシャはそのことについては言及せず、
「じゃあね。ダニエルさん」
とさらりと挨拶をする。
もしかしたら、ダニエルではないということも気づいているのかもしれない。
「ああ、また」
素知らぬ顔でラリーも挨拶する。
そして、車に向かって歩き始めた。
ルシウスがバラ撒こうとしている『ボクの悲劇日記』がどんなものか知りたかった。
万が一、悪質な、例えばウイルス的なものだったら困る。
車に戻ると、リムジンの後部座席で、ブランケットを被ってルシウスが寝息を立てていた。
「……自由すぎる」
ラリーが座席に座ると、自動運転の車が滑らかに動きだす。次の行き先は、すでに鹿の園に設定されていた。

夜中近くになって、車は鹿の園に着いた。
「ここは、もしかして西門かい?」
正面玄関である東門は、通り抜けると玄関が教会となっており、若い騎士が年老いた王を倒すステンドグラスがはめ込まれている。
一方、こちらの門は地味な造りで、貴族の館の裏口のような、上品だけどそっけない雰囲気だった。
「そ。こっちは、男娼とか受付係とか従業員専用の入り口。まあ、客と同伴だと男娼は東門を通れるから、ド新人だった頃しか、ボクはここを通ったことがないけれどね」
「で、今回は僕が君を売り飛ばす客なわけだけど、それでもこっち?」
ラリーが言うと、ルシウスが笑い出す。
「やだなー。鹿の園の気遣いだよ、気遣い!他の客に顔を見られないようにってね。ドメインをわざわざ鹿の園に売りに来るのは、それだけ切羽詰まっているってことでしょ」
「ははあ、なるほど」
「ラリー。門の横のインターフォンを押して。クリストファーを呼び出して」
「なんだか君が主人みたいだ」
「アハッ。そりゃ、気分がいいや」
ラリーは液晶のインターフォンを押すと、黒い画面のまま、『はい。鹿の園です』という落ち着いた男性の声が聞こえて来た。
「お約束させていただいた、えーと?」
この場合誰の名前を言えばいいのだろうと、考えていると、「ダニエル!ダニエル!」と隣のルシウスが囁く。
そうしているうちに、パッとインターフォンの液晶画面が付いた。
髪の色はエドワードと同じ銀髪。目の色はかなり灰色がかっている。
冷たげな顔立ちをした美形の青年だった。
「ルシウス。全く、何なんですか?」
彼は開口一番、文句を言った。
「やっぱりクリストファーの声だったんだね。遅くなってごめ~ん」
ルシウスは、軽い口調で謝る。
「貴方はダニエル元伯爵に買い取られたはずです。それなのに、また、鹿の園で働きたいなど、何の悪い遊びですか?」
クリストファーは相当、ルシウスに対して怒っているようだ。
詰問口調を緩めない。
ビュウッと冷たい風が吹いて、ルシウスが身をくねらせた。
「ねえ、クリストファー、寒い」
「可愛い子ぶってもダメ!」
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