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第七章 ラリー

162:やあ、君がルシウス?

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どうやら彼の決意は固いらしい。
今日、王宮に戻ることをラリーは諦めることにした。
前回、違法捜査で鹿の園に入り込んだときの会員証は、バーンにすぐに没収されてしまったので、クリストファーに会うには、上司に面倒な手続きさせなければならない。
だったら、この小憎たらしいドメインについていった方が話しが早い。
クリストファーの情報が少しは知れるだろう。
車は、数時間かかってサーシャが住んでいるハイウィカムに着いた。USBスティックをプラスティックケースに詰める作業はまだ、半分も終わっていない。
「寒っ」
外はビュービューと風が音を立てて吹いていた。
なんて風の強いところだろう。
身を切るような冷たい温度に、ラリーは慌ててグローブを付けた。
「やあ、君がルシウス?」
小柄で不健康な感じの青年が、山小屋の前に立っていた。
「そう。サーシャだよね。よろしく」
「急に、ドローンを貸せと言われても困るんだけど」
「だって、君ほど、個人で所有している人はいないし。お願い、頼むよ」
ルシウスは、片目をパチンと瞑る。
「君、昔、売れっ子の男娼だったらしいね。でも、色仕掛けは無駄だよ。こっちは、その気はないから」
「ワーオ。『配送ドローン、貸して』ってお願いしただけなのに、顧客の情報、そこまで知ってんだ」
「こっちは、元システム屋。一万羽貸せって言われたら、そりゃあ、怪しむ」
サーシャは二人を山小屋に案内した。
山小屋は二階建てになっていて、かなり大きい。
そのせいか暖炉がついていても、全く温かくない。グローブを取る気にはなれなかった。
吹き抜けの天井部は、吊るされた配送ドローンで隙間なく埋め尽くされていた。ピジョン、イーグル、ファルコンと大きさはさまざまで、スパロー(スズメ)、スワロー(ツバメ)などラリ-が見たことのない配送ドローンもいる。
「どうしてまたこれだけの数のコレクションをしようと思った?」
ラリーが聞くと、サーシャは修理しかけのイーグルの配送ドローンを掴んで手を動かしながらボソボソと言う。
「ここら辺は気流が乱れやすく、よく配送ドローンが落ちてくる。あとは、この山に違法投棄された耐用年数が過ぎたドローンを拾って来たもの」
ラリーは天井を見上げる。
新品同様とはいかないが、まだまだ使えそうなものばかりだ。
なんとなく、オールドドメインの自分と重ねてしまって切なくなった。
オールドドメインはスクリーニングで病気の細胞を取り除けるので、人間よりはるかに長生きできる。しかし、耐用末期は必ずやってくる。
そのとき、物扱いの自分たちは、山に違法に捨てられた配送ドローンのような運命をたどるのではないだろうかと、ラリーは長い時間、配送ドローンが吊るされた天井を眺めていた。
「話が違う!」
急にサーシャが叫び声を上げて、我に返る。
「貸してって言うから、山小屋の住所を教えた。なのに売れってどういうこと?」
すぐ隣で、ルシウスがヘラヘラと笑っている。
「だって、サーシャさあ、また。大量に捨てられた配送ドローンを山で見つけたって言ってたじゃん?もう置き場所が無いのにどうしようって」
「う……。そうだけど」
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