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第七章 ラリー
156:止れええええっ!!
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「アーサー、見て。チェインとロベルトだ」
ソファーに座っていたベリルが、声を発した。
テレビには、若い二体の青年が鉄柵越しに映っていてた。
彼らの後ろには何十体ものオールドドメインがいて、数字の羅列が刻印された手の甲を見せたり、グローブを振り回したりしている。
暴力的な熱気に当てられ、二体の顔は上気していた。恋仲のようで手を繋ぎ、じっと王宮を見ている。
少し年かさのスレた雰囲気のある青年がタブレットを取り出した。そして、自分がテレビに映っているのを知ったのか、もう一体の少年を連れて急いで群衆の中に紛れて行った。
「隣家を飛び出して来たみたいだね」
「マダム、怒っていないかなあ」
「彼女は温和な方だから。けれど、主人の方はどうかな。ロベルトが勝手なことをしたと怒り狂っているかもしれない」
「そうなることが分かっていても、館を出たかったんでしょ?自分の責任だ。周りがとやかく言うことじゃないよ」
窓辺にいたルシウスが、そう言いながらラリーの傍にやってくる。
「ラリー。そいつをとっとと館に連れて行ってくれ。朝からうるさくて構わん」
エドワードがイライラしたように言う。
そこには、母親が良くない状態であることを心配する姿は微塵も無かった。
「じゃ、よろしくね。殿下、王宮の馬車を使ってもいいんでしょ?」
「装飾が地味な馬車で行け。それでも、暴徒に卵や暴言をぶつけられるかもしれない」
「ワーオ。映画の世界みたい」
ルシウスは、ふざけた調子で言いながら部屋を出て行く。
「では、殿下。後ほど」
「大変なお守りになるだろうが、頑張ってくれ」
エドワードが、むっつりした調子で答えた。
王宮の外に出て、言われた通り地味な馬車に乗り込む。
一番、ドメインの数が少ない門を選んで出たが、すぐに彼らが取り囲んできて、バンバンと馬車を叩いて来た。
「エドワード王太子殿下!俺たちの話を聞いて下さい」
「お願いします」
「止れええええっ!!」
扉の隙間から、彼らの悲痛な声が聞こえる。
このままでは、馬車を止められてしまう。
そうしたら、興奮状態の彼らは、何をしでかすか分からない。
ラリーは馬車の小窓を開けず、御者に向かって声を張った。
「飛ばしてくれ」
ピシッとムチが当てられた音がした。ヒンッと馬が嘶き、馬車のスピードがグンッと上がる。
「何か、すごいねー。しかも、この馬車に殿下が乘っているって勘違いしているところもウケる」
馬車の座席で、優雅に足を組んでいるルシウスはまるで他人事だ。
「君さ。ドメインが大挙して王宮に押し寄せてきていて、おまけにアン女王が臥せられているっていう状況なときに、館に荷物を取りに行きたいだなんて、少し空気を読んだら?」
ラリーが小言を言うが、ルシウスはポケットからタブレットを取り出して、それをいじくり始めた。
「そもそも荷物って何?配送ドローン対応なら、王宮で受け取ればいいじゃないか」
「王宮は特別区だから、配送ドローンは上空を通過できませーん。したがって中にいる相手にも届けられませーん」
ソファーに座っていたベリルが、声を発した。
テレビには、若い二体の青年が鉄柵越しに映っていてた。
彼らの後ろには何十体ものオールドドメインがいて、数字の羅列が刻印された手の甲を見せたり、グローブを振り回したりしている。
暴力的な熱気に当てられ、二体の顔は上気していた。恋仲のようで手を繋ぎ、じっと王宮を見ている。
少し年かさのスレた雰囲気のある青年がタブレットを取り出した。そして、自分がテレビに映っているのを知ったのか、もう一体の少年を連れて急いで群衆の中に紛れて行った。
「隣家を飛び出して来たみたいだね」
「マダム、怒っていないかなあ」
「彼女は温和な方だから。けれど、主人の方はどうかな。ロベルトが勝手なことをしたと怒り狂っているかもしれない」
「そうなることが分かっていても、館を出たかったんでしょ?自分の責任だ。周りがとやかく言うことじゃないよ」
窓辺にいたルシウスが、そう言いながらラリーの傍にやってくる。
「ラリー。そいつをとっとと館に連れて行ってくれ。朝からうるさくて構わん」
エドワードがイライラしたように言う。
そこには、母親が良くない状態であることを心配する姿は微塵も無かった。
「じゃ、よろしくね。殿下、王宮の馬車を使ってもいいんでしょ?」
「装飾が地味な馬車で行け。それでも、暴徒に卵や暴言をぶつけられるかもしれない」
「ワーオ。映画の世界みたい」
ルシウスは、ふざけた調子で言いながら部屋を出て行く。
「では、殿下。後ほど」
「大変なお守りになるだろうが、頑張ってくれ」
エドワードが、むっつりした調子で答えた。
王宮の外に出て、言われた通り地味な馬車に乗り込む。
一番、ドメインの数が少ない門を選んで出たが、すぐに彼らが取り囲んできて、バンバンと馬車を叩いて来た。
「エドワード王太子殿下!俺たちの話を聞いて下さい」
「お願いします」
「止れええええっ!!」
扉の隙間から、彼らの悲痛な声が聞こえる。
このままでは、馬車を止められてしまう。
そうしたら、興奮状態の彼らは、何をしでかすか分からない。
ラリーは馬車の小窓を開けず、御者に向かって声を張った。
「飛ばしてくれ」
ピシッとムチが当てられた音がした。ヒンッと馬が嘶き、馬車のスピードがグンッと上がる。
「何か、すごいねー。しかも、この馬車に殿下が乘っているって勘違いしているところもウケる」
馬車の座席で、優雅に足を組んでいるルシウスはまるで他人事だ。
「君さ。ドメインが大挙して王宮に押し寄せてきていて、おまけにアン女王が臥せられているっていう状況なときに、館に荷物を取りに行きたいだなんて、少し空気を読んだら?」
ラリーが小言を言うが、ルシウスはポケットからタブレットを取り出して、それをいじくり始めた。
「そもそも荷物って何?配送ドローン対応なら、王宮で受け取ればいいじゃないか」
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