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第七章 ラリー

155:ラリー。貴方は、何も分かっていない

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嫌味を言ってしまった自分がここにいたって、メアリーの慰めにはならない。
けれど、見捨てるのはあまりにも酷だ。
なぜなら、エドワードなら、こんなことはしない。
じゃあ、どうするとラリーは考えて、電気ケトルに水を入れて沸くのを待った。一分ほどでお湯が沸くと、棚にあったティーカップを取り出し、ティーバックの茶葉をそこに入れてお湯を注ぐ。
そして、メアリーに差し出した。
「どうぞ。そこにあったティーバックの紅茶ですが」
「ありがとう」
メアリーは指先を温めるかのように、両手でティーカップを握る。
「本当にどうされたんですか?お加減が悪いなら医者を」
すると、メアリーは唇を震わせながら、言った。
「アン女王のお加減が悪いようなの」
「え?」
テロで夫を失ったアンが精神的に不安定なのは周知の事実だが、かと言って風邪や身体調不良で公務を欠席することはこれまで無かった。
「そんなに?」
ラリーが話しかけるが、メアリーはティーカップを置き、再び両手を組んで額を当てると、「どうしよう。どうしよう」と呟き始める。
ラリーには、それが演技に見えた。
仕事を急に外されて、気持ちが腐っていたせいかもしれない。
「アン女王がこれを機に退位されれば、殿下が国王になられます。そうしたら、メアリー様を王妃にという声が今以上に高まるでしょう。そんなに困ることではないのでは?」
お湯の入った電気ケトルをメアリーの傍に置いて、去りかけると、彼女の呟きが聞こえて来た。
「ラリー。貴方は、何も分かっていない」
分かっていないのは、あんたの方だ、お嬢さん。
と心の中で言い返して、ラリーはキッチンを出た。
介抱のために、キッチンに連れて行ったし、紅茶も出した。
やることはやった。
悔い無しと思いながら、エドワードの部屋の扉を押す。
「すみません。遅くなりました」
ラリーは、まず謝罪から述べた。
ソファーには、アーサーとベリルが座り、その対面にはエドワードが。背後にはバロンが立っていた。そして、窓辺に一人、ルシウスがいる。
テレビが付いていて、画面右上にはLIVEという文字。そして、王宮に集まるオールドドメインの様子が映し出されていた。
「構わん。こちらこそ、自宅待機となったところを呼び出して悪かったな」
「御用件は何でしょうか?」
「護衛を頼みたい。ルシウスを館に連れて行って、またこちらに戻って来てほしい。何やら、荷物を受け取りたいそうだ」
「あの、ダニエル元伯爵は?」
すると、エドワードが顔を曇らせた。
「母が少し調子を崩していて、診てもらっている。だから、ルシウスには付き添えん」
「アン女王の件は、先ほどメアリー様に伺いました。しかし、どうしてダニエル元伯爵なのです?彼はドメイン再生治療に強い細胞学の権威で……」
すると、それまでラリーを見ていたエドワードが、ふいっと視線を逸らす。
「ダニエルは人間の医学も学んでいる。それに、他の者は信用できん」
また、何か、隠されている。
エドワードの態度に、ラリーは直感する。
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