【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

第七章 ラリー

152：こっちは元軍人だ。確実に当てるぞ

部屋に引きこもっているとおかしくなりそうなので、公園でぼんやりしていると、気持ちの悪い人がいると警察を呼ばれ、捕獲された。
身なりはそれなりにきちんとしているし、酒におぼれたり危ない薬も使っていないのに。
警察署に連れて行かれ、トイレの鏡で久しぶりに顔を見ると、薄ら笑いをしている自分がそこにいた。
昼からにやけ顔で公園にいるなと注意を受け釈放されると、その足で細胞ラボに向かった。診察を受けると、表情筋の異常と言われた。原因はストレスらしい。
目覚めてから半年。
訳も分からず日々が過ぎて行き、気付いたらここにいた。
そう思っていたのに、心や身体は確実に痛んでいたらしかった。
開き直る気力もなくなって、今日はこっちのカフェ、明日はあっちのカフェと無為な日々をダラダラと過ごしていた。
きっと元妻は、今後もスクリーニングを受けさせるつもりはないだろうから、他のオールドドメインより短命なのが救いだった。
早く細胞が壊死してしまえばいい。
そんな思いでカフェで過ごすラリーについたあだ名が、薄ら笑いのラリーだ。
こっちは何も楽しくなというのに。
ある日、馴染みとなったカフェで過ごしていると、銃を構えた覆面の二人組の強盗が突然押し入って来た。
第三次世界大戦がまだ終わって一年が過ぎたばかりで、英国で秩序が保たれているのはクラッシックシティーぐらいだった。
地方都市は荒れに荒れていた。こういう強奪も、日常茶飯事とまではいかないが、珍しいことではない。
窓ガラスに銃を乱射し、客と店員を恐怖に陥れ後、金を要求してきた。
「金は、スタッフのオールドドメインが……」
強盗に銃を突き付けられた店員が、店内でへたり込んでいるオールドドメインの少年を震えながら指さす。
「金庫代わりにつかっているのか。じゃあ、そいつごと持って行くか」
オールドドメインの少年に近寄っていった強盗は、彼の左手を掴んだ。そこはデータ孔となっており、こういう小さな店ではキャッシャー代わりにもなる。
その場でデータ孔にハッキングして、コインを盗むことも可能なのに、強盗は、オールドドメインの少年を抱えあげようとする。コインを盗み出したら、彼をどこかに売り飛ばすつもりなのだろう。
「暴れるな。手首を切り落として持っていってもいいんだぞ」
と強盗は脅す。
窓辺でコーヒーを飲んでいて、ガラスを割られ、床に伏せていたラリーは、素早く立ちあがって、戸口に見張りで立っていたもう一人の強盗から銃を奪うと、躊躇せずに彼の足を打ち抜いた。そして、オールドドメインの少年を肩に抱えている強盗に銃口を向ける。
「その子を下ろせ。こっちは元軍人だ。確実に当てるぞ」
ラリーの足元で呻く仲間を見た強盗は、オールドドメインの少年を投げ捨てて、ラリーを銃撃しようとする。
ラリーはまた躊躇することなく、一発、引き金を引こうとした。
「あれ？」
弾切れか。
いくら、引き金を引いても、弾が出て来ない。
しけた強盗だと思っていると、強盗がラリーの頭にぴったりと銃口の照準をあわせていた。強盗の銃から発せられる赤いレーザーが一本の線となってユラユラと揺れている。
ああ、ここまでか。
できるなら、全員、助けたかったけれど。
元軍人ってだけで、どうしてでしゃばってしまったのだろう。