【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

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第七章 ラリー

151:貴方といると、ラリーの代役の人と過ごしているみたい

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『では、私の部屋まで来てくれないか?』
「殿下の部屋ですか?分かりました。伺います」
エドワードが自室まで来いとラリーに命令するのは初めてだ。
きっとそこには、ヴァレットのバロンがいるだろう。
言葉で表すなら「愚鈍」がぴったりなバロンが、エドワードにあそこまで気に入られるとは思わなかった。
一体、あんなのの何がいいんだろう?
この四年間、エドワードに尽くしてきたのに、自分はあと一歩のところで彼に近づけない。
「あ~あ。あの時、助けるんじゃなかったよ」
とラリーは盛大にぼやく。
報われない自分が、嫌になる。
それでも、四年前よりはましだ。
第三次世界大戦で戦死し、オールドドメインとして目覚め、エドワードに会うまでが一番のどん底だった。
ラリーを、オールドドメインとして目覚めさせたのは、元妻と娘だ。
法的には、元妻の所有物として目覚めた。爵位持ちの元妻は裕福で、オールドドメインは目覚めた直後にスクリーニングを受けなければならないという制度を裏から手を回して阻止していた。
そのため、ラリーは、左手の甲に数字の刻印、親指の付け根にデータ孔が増えただけで、生前と何も変わらないと思っていた。
しかし、いざ昔の記憶を持ったまま暮らし始めても、元妻と娘との生活をまるで映画でも撮っているようなフィクションめいた物だった。
いずれ、慣れる。
そういくら自分に言い聞かせても、現実感が感じられなかった。
だから、必死に慣れようとした。
前のラリーだったらどうするのか、どう発言し、どう笑い、どう怒るのかいちいち考えた。
だが、絡まった糸をほぐそうとするとさらに絡まってしまうように、ラリ―は混乱の日々を過ごした。
それは、元妻も娘も同じだったらしい。
「貴方といると、ラリーの代役の人と過ごしているみたい」
オールドドメインとして数か月暮らした後、元妻に言われたのがこの言葉だ。
「この人は、パパじゃない」
別離を選んだとき、「寂しくない?」と聞いたら、娘にこう返された。
ラリーはずっと、彼女達の夫であり、父親であった。
オールドドメインになって、そのことに現実感を感じられなくなっても、必死に演じてきた。
けれど、元妻と娘にとっては、たっての願いでラリーを目覚めさせたものの、彼は夫ではなく、夫の記憶を持ったオールドドメインだと自覚しただけの日々だったのだろう。
裕福な元妻は、ラリ―を廃棄することは無かった。クラッシックシティーから遠く離れたところにアパートメントを購入し、ラリーにそこに住むように言った。
月の初めになれば、左手の親指の付け根のデータ孔にコインが送金されてくるので働く必要もない。
そんな自分が、とても自分が情けなかった。
一般人だったラリーが爵位持ちの元妻を見初め、アタックにつぐアタックを繰り返し、ようやく結婚にこぎつけた。
なのに、今や、所有する者とされる者の関係だ。
元妻はこう考えているこどだろう。
目覚めさせるべきではなかった。
ラリーも、また目覚めるべきではなかったと思う。
生きる目的を見いだせないまま、時間が過ぎて行った。
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