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第七章 ラリー
150:この四年、誰よりも王立警ら隊に尽くしてきたと思うんだけどなあ
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十五年前のテロは、起こることが分かっていたのに、防がれなかった、と。
疑り深いエドワードは、そのことも徹底的に調べているだろう。
軍は王家の管轄だ。
テロが予見できていながら防がれなかったのは、自分の手足に裏切られたようなものだ。
だから、エドワードに、誰がどんなに、お慕い申しあげておりますよといくら言っても、行動で示しても、誰のことも信じていない。
というより、信じることをテロが起った十二才のときで止めたのかもしれない。
「オールドドメインの新規製造が解禁されれば、ご法度の本体と複製の同時生存も起るだろう。もし、王族への二度目のテロが起ったとしたら……」
―--入替えることだって、可能?
王家と議会は、英国の両輪だ。けれど、王家のメンバーがオールドドメインにすり替えられてしまえば、議会は英国を意のままに動かすことができる。
すでに、ベリルというエドワードの複製がこの世に存在しているのだから。
ラリーは、窓辺に立った。胸ポケットから、小型のスコープを取りだし庭を見る。
王宮は、広大な庭も合わせて五万平方メートル。公式サッカーコート場の約十二倍の広さだ。
庭と道路の境目には、大人の背丈の倍もある長さの頑丈な鉄柵が打たれていて、侵入者を阻むべく、先端が鋭く尖っている。等間隔に監視カメラが設置されていて、王宮のセキュリティー部隊が二十四時間の監視を続けている。
鉄柵の周りには、興奮した顔の若い青年たちの姿があった。彼らは、寒い中、手袋を取って数字の羅列が刻印された甲を見せている。
ケビンの『エドワード王太子殿下に、待遇改善を願おう』という言葉に煽られて、議会からベックス宮殿へとやって来たドメインたちだ。
その数は、今朝、ラリーが把握しているだけで三千人。
昼に向けてますます、その数は増えていくのが予想される。
やがては暴動寸前になり、それを防ぎたいエドワードが、ケビンとの話合いに応じるという展開になりそうだ。
『ベックス宮殿前にいるオールドドメインは、必要以上に刺激するな。鉄柵をよじ登って入り込もうとるす輩だけ排除しろ』
今朝、隊長のバーンから受けた指示はこのようなものだった。
王立警ら隊二百名と特別召集した警官二千名で、庭の警備にあたることになったのだが、ラリーだけ自宅待機を命じられてしまった。
過剰な連続勤務を、これ以上看過できない。
隊長バーンの言い分はこうだったが、実際は、ラリーがオールドドメインだからだ。
王立警ら隊に、オールドドメインはラリー一人しかおらず、鉄柵の向こう側の仲間と通じ、この騒動が大きくするかもしれないと考えたようだ。
「この四年、誰よりも王立警ら隊に尽くしてきたと思うんだけどなあ」
独り言を言っても、もちろん誰も答えてくれない。
このような差別は日常茶飯事だから、傷ついている訳ではない。急に予定が空いてしまって一人で過ごす時間が出来てしまったのが嫌なだけだ。
プライベートなことを考える隙を与えたくないから、仕事に没頭して、倒れるように眠る毎日を過ごしているのはそのせいだ。
「なんとか、この騒動を収めなければならないのに、現場にいることすらできないなんて、僕は何をしているんだ」
と呟きながらスコープを胸ポケットに戻していると、耳にかけた通信機が鳴った。
「はい。ラリーです」
『エドワードだ。バーンから連絡を受けた。自宅待機になったそうだな』
「ええ。まあ」
『もう、王宮は出てしまったか?』
「いいえ。まだ、おります」
疑り深いエドワードは、そのことも徹底的に調べているだろう。
軍は王家の管轄だ。
テロが予見できていながら防がれなかったのは、自分の手足に裏切られたようなものだ。
だから、エドワードに、誰がどんなに、お慕い申しあげておりますよといくら言っても、行動で示しても、誰のことも信じていない。
というより、信じることをテロが起った十二才のときで止めたのかもしれない。
「オールドドメインの新規製造が解禁されれば、ご法度の本体と複製の同時生存も起るだろう。もし、王族への二度目のテロが起ったとしたら……」
―--入替えることだって、可能?
王家と議会は、英国の両輪だ。けれど、王家のメンバーがオールドドメインにすり替えられてしまえば、議会は英国を意のままに動かすことができる。
すでに、ベリルというエドワードの複製がこの世に存在しているのだから。
ラリーは、窓辺に立った。胸ポケットから、小型のスコープを取りだし庭を見る。
王宮は、広大な庭も合わせて五万平方メートル。公式サッカーコート場の約十二倍の広さだ。
庭と道路の境目には、大人の背丈の倍もある長さの頑丈な鉄柵が打たれていて、侵入者を阻むべく、先端が鋭く尖っている。等間隔に監視カメラが設置されていて、王宮のセキュリティー部隊が二十四時間の監視を続けている。
鉄柵の周りには、興奮した顔の若い青年たちの姿があった。彼らは、寒い中、手袋を取って数字の羅列が刻印された甲を見せている。
ケビンの『エドワード王太子殿下に、待遇改善を願おう』という言葉に煽られて、議会からベックス宮殿へとやって来たドメインたちだ。
その数は、今朝、ラリーが把握しているだけで三千人。
昼に向けてますます、その数は増えていくのが予想される。
やがては暴動寸前になり、それを防ぎたいエドワードが、ケビンとの話合いに応じるという展開になりそうだ。
『ベックス宮殿前にいるオールドドメインは、必要以上に刺激するな。鉄柵をよじ登って入り込もうとるす輩だけ排除しろ』
今朝、隊長のバーンから受けた指示はこのようなものだった。
王立警ら隊二百名と特別召集した警官二千名で、庭の警備にあたることになったのだが、ラリーだけ自宅待機を命じられてしまった。
過剰な連続勤務を、これ以上看過できない。
隊長バーンの言い分はこうだったが、実際は、ラリーがオールドドメインだからだ。
王立警ら隊に、オールドドメインはラリー一人しかおらず、鉄柵の向こう側の仲間と通じ、この騒動が大きくするかもしれないと考えたようだ。
「この四年、誰よりも王立警ら隊に尽くしてきたと思うんだけどなあ」
独り言を言っても、もちろん誰も答えてくれない。
このような差別は日常茶飯事だから、傷ついている訳ではない。急に予定が空いてしまって一人で過ごす時間が出来てしまったのが嫌なだけだ。
プライベートなことを考える隙を与えたくないから、仕事に没頭して、倒れるように眠る毎日を過ごしているのはそのせいだ。
「なんとか、この騒動を収めなければならないのに、現場にいることすらできないなんて、僕は何をしているんだ」
と呟きながらスコープを胸ポケットに戻していると、耳にかけた通信機が鳴った。
「はい。ラリーです」
『エドワードだ。バーンから連絡を受けた。自宅待機になったそうだな』
「ええ。まあ」
『もう、王宮は出てしまったか?』
「いいえ。まだ、おります」
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