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第六章 エドワード
146:だから、これ、なんでしょう
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功績があった者を選ぶのは、議会だ。
特にケビンはそれに熱心で、今年も自分の息がかかった人間や、自分の株を上げてくれる相手を送り込んでくるだろう。
王家と議会は二人三脚。
父の代、祖父の代と上手にバランスを取りながらやってきた。
しかし、ケビンが首相になると力関係は完全に議会の方が上回るようになっていた。
王太子の身分であるエドワードは、表立って強い発言権があるわけでなはい。
だから、ケビンは扱いやすいアンをお飾りにして、いつまでもエドワードを王太子のままにしておいている。
だが、ふと思うことがあるのだ。
ケビンが邪魔な自分を本気で排除するなら、完璧な複製を造り、彼は傀儡に回るだろうと。
そして、本体である自分は、闇に葬りさられる。
今の技術で完璧な複製が難しいなら、エドワードを重体にさせればいい。
例えば、十五年前のテロのようなことを。
傷ついた自分と取り代えて、「殿下はまだ、心の傷が癒えず」と周りに吹聴すればいい。
アンのときみたいに。
だから、ケビンを絶対に止めなければ、ダメだ。
人間も、世に生まれ出てしまったオールドドメインも、代わりなどいない。
放っておけば、傷つく者が大勢出る。
本体は、スペアによって存在が軽くなるものではない。
エドワードは、テロに遭って以来、ずっとそう思って生きてきた。
しかし、幾体かのオールドドメインと会って、その考えを改めた。
オールドドメインだって、本体のスペアではなく、存在も軽いものではないのだ。
彼らは彼らのオールドドメイン生を持ち、過酷な環境でも生きようとあがいている。
これ以上の不幸は絶対に作らせないと、エドワードは固く誓って、勲章授与式の開始を待った。
夜になり、ホールに人が集まり始めた。
定刻時間になると楽隊がラッパを吹き鳴らす。
エドワードは、ヴァレットのバロンに勲章の入ったトレイを持たせ、一列に並ぶ功績者に、勲章を付けて歩く。
今年の勲章授与者は五十四名で、ほとんど老人ばかりだが、中には若いのもいる。
「お前は」
手入れを怠ったかのような巻き毛の背の高い男が、勲章の授与を待っていた。
「えっと、えーと、彼はネットフィリップス社のスチュワート様です」
数枚のカンペの紙をペラペラと捲ったバロンは、スチュワートの顔を見て、目を丸くする。
「どうも」
「パパラッチが勲章を受けるとは。時代も変わったもんだ」
エドワードはヤレヤレという顔をする。
「首相の人選らしいですから」
「お前は、勲章など好きそうには見えんがな」
スチュワートはエドワードに付けてもらった勲章を摘んで、裏表と見回した。
「あちらは、こういうのを与えて、俺とネットフィリップスを抱き込もうって魂胆なんでしょ。じゃあ、こっちも乘ってみようかと」
スチュワートは、カメラのシャッターを切る真似をする。
「お前、カメラの腕は相当よいようだな。紙の新聞やネット系ニュースサイトでは、ネットフィリップスの写真が群を抜いている」
「だから、これ、なんでしょう」
とスチュワートは貰った勲章を持ち上げて、プラプラさせる。
「なら、十五年前の映像も、綺麗な写真にすることは可能か?」
「十五年前?」
特にケビンはそれに熱心で、今年も自分の息がかかった人間や、自分の株を上げてくれる相手を送り込んでくるだろう。
王家と議会は二人三脚。
父の代、祖父の代と上手にバランスを取りながらやってきた。
しかし、ケビンが首相になると力関係は完全に議会の方が上回るようになっていた。
王太子の身分であるエドワードは、表立って強い発言権があるわけでなはい。
だから、ケビンは扱いやすいアンをお飾りにして、いつまでもエドワードを王太子のままにしておいている。
だが、ふと思うことがあるのだ。
ケビンが邪魔な自分を本気で排除するなら、完璧な複製を造り、彼は傀儡に回るだろうと。
そして、本体である自分は、闇に葬りさられる。
今の技術で完璧な複製が難しいなら、エドワードを重体にさせればいい。
例えば、十五年前のテロのようなことを。
傷ついた自分と取り代えて、「殿下はまだ、心の傷が癒えず」と周りに吹聴すればいい。
アンのときみたいに。
だから、ケビンを絶対に止めなければ、ダメだ。
人間も、世に生まれ出てしまったオールドドメインも、代わりなどいない。
放っておけば、傷つく者が大勢出る。
本体は、スペアによって存在が軽くなるものではない。
エドワードは、テロに遭って以来、ずっとそう思って生きてきた。
しかし、幾体かのオールドドメインと会って、その考えを改めた。
オールドドメインだって、本体のスペアではなく、存在も軽いものではないのだ。
彼らは彼らのオールドドメイン生を持ち、過酷な環境でも生きようとあがいている。
これ以上の不幸は絶対に作らせないと、エドワードは固く誓って、勲章授与式の開始を待った。
夜になり、ホールに人が集まり始めた。
定刻時間になると楽隊がラッパを吹き鳴らす。
エドワードは、ヴァレットのバロンに勲章の入ったトレイを持たせ、一列に並ぶ功績者に、勲章を付けて歩く。
今年の勲章授与者は五十四名で、ほとんど老人ばかりだが、中には若いのもいる。
「お前は」
手入れを怠ったかのような巻き毛の背の高い男が、勲章の授与を待っていた。
「えっと、えーと、彼はネットフィリップス社のスチュワート様です」
数枚のカンペの紙をペラペラと捲ったバロンは、スチュワートの顔を見て、目を丸くする。
「どうも」
「パパラッチが勲章を受けるとは。時代も変わったもんだ」
エドワードはヤレヤレという顔をする。
「首相の人選らしいですから」
「お前は、勲章など好きそうには見えんがな」
スチュワートはエドワードに付けてもらった勲章を摘んで、裏表と見回した。
「あちらは、こういうのを与えて、俺とネットフィリップスを抱き込もうって魂胆なんでしょ。じゃあ、こっちも乘ってみようかと」
スチュワートは、カメラのシャッターを切る真似をする。
「お前、カメラの腕は相当よいようだな。紙の新聞やネット系ニュースサイトでは、ネットフィリップスの写真が群を抜いている」
「だから、これ、なんでしょう」
とスチュワートは貰った勲章を持ち上げて、プラプラさせる。
「なら、十五年前の映像も、綺麗な写真にすることは可能か?」
「十五年前?」
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