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第六章 エドワード

140:今、どんなお気持ちですか?

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ダニエルが三日前に自宅のラボで解析作業に入って、本日の午後に戻るという連絡が入ったので、彼らをここに呼んだ。
しかし、会話はない。
当たり前かと思いながら、エドワードは紅茶を口に運ぶ。
バロンは、エドワードの隣りに黙って座っている。
ベリルの様子が気になるのか、チラチラと様子を伺っていた。
エドワードは「テレビ オン」と声を発した。
『新ドメイン法の制定により、今日も、大雪が降る中、議会前には多くのオールドドメインが集まっています』
国営放送ABCテレビのカメラは、お馴染みのアナウンサーアリスのレポートの様子を映し出す。
本日、議会は最終日だ。
ケビンは、任期四年のうち三年目を終え、再選を果たすため、これから選挙活動に入る。
英国は、世界でも珍しい首相公選制で、国民が首相を選ぶ。
人気取りのために、「弱者救済 オールドドメイン救済」と声高に叫ぶだろう。
彼に騙されて不幸になるオールドドメインが出なければいいがと思いながら、エドワードはテレビの画面を見つめる。
『今、どんなお気持ちですか?』とアリスは、やせ細った青年にマイクを向ける。
『そりゃ、嬉しいですよ。でも、喜んでいるのは、グローブを付けてよくなったとかそういう小さなことじゃなく、人間との差が縮まったことです。ケビン首相は、これからもどんどん、そういった差を縮めてくれるでしょう。ドメイン嫌悪派のエドワード王太子殿下が反対するかもしれませんが、僕は全力でケビン首相を応援します』
また、アリスにカメラが振られた。
『このような意見を持つオールドドメインが、続々と議会前に集まっています。警備上の理由から、警察が追い出しにかかりましたが、すぐにまた戻って来てしまいこの有様です。彼らの所有者はどのように思っているのでしょう?中には、オールドドメインが反乱の兆しを見せ始めたと警戒する人間も出てくることでしょう。密航船などを使い、海外からもケビン首相に賛辞を送るためやってきたオールドドメインが、捕獲され、所有者の元に強制送還されたというニュースも入っております』
急に、カメラが上方を向く。そして、議会の扉がアップになった。そこから、上品にスーツを着こなした六十代半ばぐらいの男が出てくる。
ケビンだ。
『あっと、ケビン首相です』
アリスは叫んで、議会の階段をすごい勢いで駆け上がっていく。
他のテレビ局も別の方向から、マイクを握り絞めたリポーターが、そして、カメラを担いだカメラマンが駆け上って行って、あっという間にケビンを取り囲んだ。
議会の階段に座っていた大勢のオールドドメインも、彼に向かって押し寄せていく。まるで、浜辺に打ち寄せる波を見ているかのようだった。
ケビンは、手にポットを持っていた。そして、紙コップをリポーターたちに配り始める。
ポットからコーヒーが注がれ、紙コップからは湯気が立ち上がった。寒い外でのその行為は、まるでコーヒーの香りまで伝わってくるかのような演出だ。
議会からは、他の議員も出てきた。皆、ケビンと同じく、ポットと紙コップを持っている。そして、集まったオールドドメインたちに配り始めた。
ケビンがリポーターたちをかき分け、議会の階段の上に立つ。
『皆、寒かっただろう。コーヒーで身体を温めてくれ。その後は、タウンミーティング(対話集会)といこうではないか。オールドドメインの皆が、今、どのような立場にあるか遠慮なく教えてもらいたいね』
傍にいたオールドドメインたちが、どよめきの声を上げた。
『首相が?』
『オレたちの意見を?!』
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