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第六章 エドワード

137:この手は、もう少しきつく回してくれないか

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「バロン」
「……はい」
「もたれたい」
「え?」
「私の後ろに回ってくれ。それと、電気を消して欲しい」
「後ろですか?はい。ライトオフ」
部屋は、また暗闇に包まれる。
バロンがエドワードの後ろに回り、エドワードはバロンに背中からもたれた。
身体に回った左手が、エドワードの古傷を擦る。
暗闇になると、お互いの息づかいが際立って聞こえる。
「何か喋ってくれないか。沈黙は困る」
「は、はい」
バロンが上ずった声で喋り始めた。
緊張しているのが、丸わかりだ。
バロンの手が、エドワードの古傷のあたりを擦る。
「さ、さっき見てビックリしたんですが、これ、随分昔の傷なんですね。この部分だけ盛り上がってツルツルしています」
「十五年前のテロの傷だ。ダニエルにもメアリーにも、残っている。この程度で済んだのは、アーサーが身を挺して守ってくれたお蔭だ」
「よかった。殿下は、アーサー様のこと、嫌いじゃないんですね。心の底から憎かったら、守ってくれたお蔭なんて言葉、出て来ませんもの。ベリルのことで、お気持ちが乱れているだけですよね。そして、その原因を作ったのは、俺なわけで」
バロンの声が沈む。
「ラリーのことも、キースのことも、そして、バロン。お前のことも。ダニエルに言われた通り、私は、人間やドメインではなく、一つの個として見ているのだと思う。しかし、ベリルだけは、どうしても同一視してしまう。見た目も年齢も雰囲気もまるで違うのに」
「お気持ち、完全に察することができなくて、申し訳ありません」
「いや、いい」
エドワードは、バロンに本格的に体重を預けた。
「この手は、もう少しきつく回してくれないか」
「こ、こうですか?」
頼むと、古傷を触っていたバロンに手が、力強くエドワードの上半身を包む。
「悪いが、もう一方の手も貸してくれ」
差し出された手を広げさせ、エドワードは手のひらを舐めた。
「うわっ、殿下っ」
バロンは戸惑っていたが、拒絶はしてこなかった。
エドワードは唾液で湿ったバロンの手を、ブランケットに隠れている自分の雄に導く。
ぬるりとした湿り気に、「ンンッツ」と低く呻いてしまった。
「あれ……」
後ろから抱きしめられているので、バロンの声が近い。耳元で息がかかって、エドワードをゾワゾワさせる。
「殿下のって、……なんか、ビックリするくらい」
ブランケットの下にあるバロンの手は、エドワードの形や大きさ、直径を確かめるようにワサワサと動きまわる。
待ちきれなくなってエドワードは、そこに自分の手を重ねた。
「動かしてくれ」
「は、はい」
また、バロンの息がかかって、エドワードはのけ反る。
快感は、情けなさも伴っていた。
見事なブーメランだな、と思う。
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