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第六章 エドワード

136:また、さっきみたいに酷いことをされたいのか?」

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まさかエドワードが自慰をしているとは思わなかったようだ。
「お前、今日は用はないと言ったろう。あそこまでされておいて、おめおめとよく出て来られるな」
自慰をしていたとを気づかれたくないエドワードは、バロンに皮肉を浴びせる。
「ですがっ、異変を感じたら、確認するのがヴァレットの役目です。どこか、苦しいのですか?」
バロンがベッドに乘って来て、エドワードの具合を確かめようとした。カサリとビニールが擦れる音がする。おそらく、封が裂かれた銀の包みに触れたのだ。
「あれ?これって……もしかして、その。申し訳ありませんっ」
「いい。私も紛らわしいことをして、悪かった」
エドワードは、諦めてブランケットの下で雄から手を離す。ベッドサイドの小机の上にあるティッシュを手探りで探し、引き抜いて手を拭いた。
「俺、すぐ去りますので、どうぞ、お続けに」
「無理だ。出さなければいけないと思うのがいけないのか、一向に達しない。ダニエルにさっさと渡したいというのに」
エドワードはくしゃくしゃにしたティッシュを、力任せに部屋の隅に投げつける。ボコッと鈍い音がした。
だが、バロンが去る様子はない。
闇の中で、じっと息を凝らして傍に立っているのが分かる。
「無様なところを見せた」
「……」
「もう去れ」
「……あの」
「バロンッ」
エドワードが声を荒げると、消え入りそうな声量でバロンが言った。
「もしよかったら、俺、……お手伝い」
エドワードは頭をかきながら、「ライト 薄明り」と声に出す。
部屋は、すぐにぼんやりとした明かりに包まれた。
ベッドの脇には、身体をカチカチにして立っているバロンがいる。
「何を、馬鹿なことを言っている。また、さっきみたいに酷いことをされたいのか?」
「……殿下のお怒り元を辿れば、俺のせいですし」
バロンは、責任を感じているのだろう。
着ていたジャケットを脱いで、ベッドの端に置く。
そして、シャツのボタンに手を掛けた。
「おい、待て。待てって」
エドワードが止めるのも聞かず、バロンは一つ、二つとボタンを外していき、傷が目立つ肌を晒した。
「俺の手や口や穴を使ってください。みっともない身体なので、目を瞑って、綺麗なルシウスでも想像していただければ……」
「お前は、馬鹿なのか?そうやっていつも自分を下げて、無下に扱ってもらおうとする」
「はい。馬鹿です。だから、馬鹿は馬鹿なりの身の捧げ方しか知りません」
バロンは、エドワードに震わせながら手を伸ばしてきた。
エドワードの頭を、そっと抱き寄せる。
空けられたシャツの所にちょうど額が当たって、エドワードはバロンの体温を感じた。
はあと、勝手に息が漏れる。
エドワードは心の中で、両手を上げていた。
こいつは、どこまでも尽くそうとする。
それが、どういう形であっても。
自分の心と身体を傷つけてでも。
もう、バロンを遠ざけることはできそうになかった。
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