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第六章 エドワード
134:何度言わせれば、気が済む?私は、気が立っている。うろちょろするな。目障りだっ
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それを無視し、歩調を早める。
「体液、今晩中にな。明日には、ラボに戻って解析を始める。二、三日、時間をくれ」
「ルシウスは、置いていけ」
「王宮見学できるって喜ぶぜー」
茶化したダニエルの声が聞こえて来て、エドワードは手の中の銀の包みをグシャッと握りつぶす。
荒々しく息を吐き出して、廊下を歩き出すと、
「……殿下」
とバロンが小走りで駆けて来て、エドワードの傍らを歩き出した。
「今日はもう、お前に用はない」
エドワードは言い捨てて、自室へと向かう。
身体が未だにカッカッしていた。
怒り。
そして、全力で否定したいことだが、ベリルとアーサーの姿に当てられたのだ。
おまけに、お前の体液を出せとダニエルに言われる始末。
自室につくと、自分を落ち着かせたくてバスルームに向かった。服を藤の籠に乱暴に脱ぎ捨てて、冷たいタイルを歩き出す。
コックを捻ると、熱めのシャワーがほとばしる。
しかし、どんなにそれを浴びても、エドワードの全身からたぎる怒りは止むことが無かった。
身体から湯気を上げて、バスルームを出る。
すると、壁際にタオルを手に持ったバロンが立っていた。
エドワードの機嫌を伺うような表情をしている。
「あ……の、殿下」
「ヴァレットに、バスルームでの仕事はさせていない。ということは、男娼の真似事か?バロン」
「いいえ、そういう訳では。ただ、心配で」
「今日は、もう用はないと言ったはずだ。でしゃばるな」
「……申し訳ありません」
バロンは、エドワードにタオルを差し出してきた。乱暴にそれを奪う。
顔を上げたバロンは、罰の悪そうな顔をしていたが、エドワードの左脇に太く白い線が走っているのを見て、飛びついて来た。
「お怪我を?!」
こわごわと手を当てられ、妙な気分になり、エドワードはバロンを突き放す。
ドンッ、と背中からバロンは壁にぶつかった。
「何度言わせれば、気が済む?私は、気が立っている。うろちょろするな。目障りだっ」
「でも、その傷……」
怒鳴っても心配を続けるバロンを黙らせるため、エドワードは彼の顔上半分を片手で掴んだ。
エドワードの大きな手で、バロンの両目が隠れる。
出ているのは、鼻と唇。
「あの……」
唇が震えていた。
エドワードは、何も考えずそこにかじりつく。
「ンンッツ。あ、の。殿下っ」
息継ぎの合間に、バロンは苦し気な声を上げる。
頬を触ったり、同衾したり。
一度、口づけを交わしかけたが、それでもこんな獰猛な気持ちは感じなかった。
今は、バロンを食べつくしてしまいたい。
肉や骨をかみ砕いて腹に収め、怒りをそれで収めてしまいたい。
「体液、今晩中にな。明日には、ラボに戻って解析を始める。二、三日、時間をくれ」
「ルシウスは、置いていけ」
「王宮見学できるって喜ぶぜー」
茶化したダニエルの声が聞こえて来て、エドワードは手の中の銀の包みをグシャッと握りつぶす。
荒々しく息を吐き出して、廊下を歩き出すと、
「……殿下」
とバロンが小走りで駆けて来て、エドワードの傍らを歩き出した。
「今日はもう、お前に用はない」
エドワードは言い捨てて、自室へと向かう。
身体が未だにカッカッしていた。
怒り。
そして、全力で否定したいことだが、ベリルとアーサーの姿に当てられたのだ。
おまけに、お前の体液を出せとダニエルに言われる始末。
自室につくと、自分を落ち着かせたくてバスルームに向かった。服を藤の籠に乱暴に脱ぎ捨てて、冷たいタイルを歩き出す。
コックを捻ると、熱めのシャワーがほとばしる。
しかし、どんなにそれを浴びても、エドワードの全身からたぎる怒りは止むことが無かった。
身体から湯気を上げて、バスルームを出る。
すると、壁際にタオルを手に持ったバロンが立っていた。
エドワードの機嫌を伺うような表情をしている。
「あ……の、殿下」
「ヴァレットに、バスルームでの仕事はさせていない。ということは、男娼の真似事か?バロン」
「いいえ、そういう訳では。ただ、心配で」
「今日は、もう用はないと言ったはずだ。でしゃばるな」
「……申し訳ありません」
バロンは、エドワードにタオルを差し出してきた。乱暴にそれを奪う。
顔を上げたバロンは、罰の悪そうな顔をしていたが、エドワードの左脇に太く白い線が走っているのを見て、飛びついて来た。
「お怪我を?!」
こわごわと手を当てられ、妙な気分になり、エドワードはバロンを突き放す。
ドンッ、と背中からバロンは壁にぶつかった。
「何度言わせれば、気が済む?私は、気が立っている。うろちょろするな。目障りだっ」
「でも、その傷……」
怒鳴っても心配を続けるバロンを黙らせるため、エドワードは彼の顔上半分を片手で掴んだ。
エドワードの大きな手で、バロンの両目が隠れる。
出ているのは、鼻と唇。
「あの……」
唇が震えていた。
エドワードは、何も考えずそこにかじりつく。
「ンンッツ。あ、の。殿下っ」
息継ぎの合間に、バロンは苦し気な声を上げる。
頬を触ったり、同衾したり。
一度、口づけを交わしかけたが、それでもこんな獰猛な気持ちは感じなかった。
今は、バロンを食べつくしてしまいたい。
肉や骨をかみ砕いて腹に収め、怒りをそれで収めてしまいたい。
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