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第五章 アーサー
118:今から、君の本体に会いに行く
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「その僕ですら、踏み入らせていただけないゾーンがあるんです」
それまで、アーサーの後ろで黙っていたベリルが、前へ一歩踏み出した。
「あんたは、オールドドメイン?」
「ベリル。そういう質問は……」
新ドメイン法が施行され、グローブの着用が許されるようになり、見た目だけでは人間なのかオールドドメインなのかは分からない。
すると、ラリーが左手のグローブを取った。
「そうだよ。僕は、オールドドメインだ」
「何で、そんなに、悲しそうなんだ?」
「悲しい?笑っているのに?」
ラリーは薄ら笑いを浮かべている自分に顔を指さして、茶化したように、クルクルと回した。
「おかしいでしょう?オールドドメインなのに、表情筋がイカれてしまって、治らないんですよ」
そう言って肩をすくめてまたニヤッと笑うラリーは、表情筋の異常を抜きにしても、かなりクセがありそうだ。
しかも、エドワードの腹心の部下。
アーサーを油断させようという作戦なのかもしれないが、『僕も知りたいんですよ』という言葉には、切実な匂いがする。
ベリルがラリーに話しかける。
「殿下って奴が、アーサーを呼んでいるのか?殿下って、エドワード王太子殿下か?もしかして、アーサーが宝石を返さないから怒っているのか?」
「宝石?」
ラリーが首を傾げる。
「アン女王が、アーサーとダニエルとエドワード王太子殿下に、未来の相手とペアでつけるようにって渡した宝石をアーサーがずっと持っていたんだ」
「じゃあ、返さないといけないねえ」
ラリーは、幼い子供を相手にするかのように答える。
ベリルがアーサーの袖を掴んだ。
「なあ、アーサー。ずっと持っていてごめんって謝っちゃえば?大切に保管していたんだもの、怒りはしないって」
「そうですよ、アーサー伯爵。あの繁みやその繁みに隠れた僕の部下も、そろそろお腹を空かせている頃なので」
アーサーは、持っていたトランクを投げ出し、ベリルに抱き付く。
「ベリル、ごめんっ」
「どうしたんだよ、アーサー」
ベリルは、困った手つきで、アーサーの背中を撫でてくる。
急にアーサーの頭上に影ができた。
見上げると、ラリーが門に手をつき、上半身をかがめている。
「意味を教えてあげようか」
「止めてくれ。僕から話す。だから、二人きりになる時間を」
「御冗談。そんなことをしたら、僕も部下も深夜手当をつけなければならなくなります。ディナーやデートの予定のある部下もいるんですから、アーサー伯爵の長い長い告白は待てませんよ。僕だって、さっき、殿下に聞かされて、びっくり仰天しましたからねえ」
ラリーはそう言って、ベリルの視線まで腰をかがめた。
「今から、君の本体に会いに行く」
「本体?」
「ラリー!止めろ!止めてくれ。僕から話すから。ベリルはとてもセンシティブなドメインなんだ。次に激しい痙攣を起こしたら、治療はできない。だから、頼むから」
それまで、アーサーの後ろで黙っていたベリルが、前へ一歩踏み出した。
「あんたは、オールドドメイン?」
「ベリル。そういう質問は……」
新ドメイン法が施行され、グローブの着用が許されるようになり、見た目だけでは人間なのかオールドドメインなのかは分からない。
すると、ラリーが左手のグローブを取った。
「そうだよ。僕は、オールドドメインだ」
「何で、そんなに、悲しそうなんだ?」
「悲しい?笑っているのに?」
ラリーは薄ら笑いを浮かべている自分に顔を指さして、茶化したように、クルクルと回した。
「おかしいでしょう?オールドドメインなのに、表情筋がイカれてしまって、治らないんですよ」
そう言って肩をすくめてまたニヤッと笑うラリーは、表情筋の異常を抜きにしても、かなりクセがありそうだ。
しかも、エドワードの腹心の部下。
アーサーを油断させようという作戦なのかもしれないが、『僕も知りたいんですよ』という言葉には、切実な匂いがする。
ベリルがラリーに話しかける。
「殿下って奴が、アーサーを呼んでいるのか?殿下って、エドワード王太子殿下か?もしかして、アーサーが宝石を返さないから怒っているのか?」
「宝石?」
ラリーが首を傾げる。
「アン女王が、アーサーとダニエルとエドワード王太子殿下に、未来の相手とペアでつけるようにって渡した宝石をアーサーがずっと持っていたんだ」
「じゃあ、返さないといけないねえ」
ラリーは、幼い子供を相手にするかのように答える。
ベリルがアーサーの袖を掴んだ。
「なあ、アーサー。ずっと持っていてごめんって謝っちゃえば?大切に保管していたんだもの、怒りはしないって」
「そうですよ、アーサー伯爵。あの繁みやその繁みに隠れた僕の部下も、そろそろお腹を空かせている頃なので」
アーサーは、持っていたトランクを投げ出し、ベリルに抱き付く。
「ベリル、ごめんっ」
「どうしたんだよ、アーサー」
ベリルは、困った手つきで、アーサーの背中を撫でてくる。
急にアーサーの頭上に影ができた。
見上げると、ラリーが門に手をつき、上半身をかがめている。
「意味を教えてあげようか」
「止めてくれ。僕から話す。だから、二人きりになる時間を」
「御冗談。そんなことをしたら、僕も部下も深夜手当をつけなければならなくなります。ディナーやデートの予定のある部下もいるんですから、アーサー伯爵の長い長い告白は待てませんよ。僕だって、さっき、殿下に聞かされて、びっくり仰天しましたからねえ」
ラリーはそう言って、ベリルの視線まで腰をかがめた。
「今から、君の本体に会いに行く」
「本体?」
「ラリー!止めろ!止めてくれ。僕から話すから。ベリルはとてもセンシティブなドメインなんだ。次に激しい痙攣を起こしたら、治療はできない。だから、頼むから」
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美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
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