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第五章 アーサー

117:どうせなら、心中した方が、お互い幸せでは?

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でも、ベリルが調子を崩したら、最先端の治療ができるラボはおそらくない。
やはり、ダニエルがいるクラッシックシティーでなければ……。
そう考えながらも、アーサーはトランクを開けて、ベリルの服や靴を詰め込んでいた。
トントンと肩を叩かれる。
「何?!」
必死のアーサーに、ベリルは驚き後ずさりした。
「あの……。これはどうする?置いていけないだろ?貸金庫に戻す?それとも持って行く?」
手には、六つの宝石が入った銀の箱。
「……そうだね、持って行こうか」
アーサーは、またも神の采配を受けた気分で、力なく銀色の箱を受け取った。
旅支度を整えて二人が館を出ると、門の前に黒い軍服姿の男が立っていた。
「ベリル。やっぱり止めよう」
「せっかく準備したのに」
「いいから」
ベリルを無理やり館に入れようとすると、「アーサー伯爵~~っ!!お出かけですかぁ??」と男が大声で叫ぶ。彼の顔には薄笑いが浮かんでいた。
王立警ら隊の軍服を着て、かなりの長身だ。
彼は、さっと馬車を指さした。
「馬車ならすでに用意してありますよ。行き先は、ベックス宮殿と決まっていますが」
もう逃れられない。
きっと、王立警ら隊は、彼だけじゃなく、複数、この館周辺に紛れているに違いない。
アーサーは、フラフラと彼に近づいていった。
「アーサー?アーサー!?なあ、大丈夫?」
とベリルがしつこく聞いて来るが、対応できる余力がなかった。
「エドワードが、僕を呼んでいる?」
軍服の男に尋ねると、彼は、さらに笑う。
「ええ。今にも口から火を噴きそうな勢いで、お待ちですよ。こちらは、シファーチェですね」
「いや、ベリルだ」
とアーサーは訂正する。
「御願いだ。この子には危害を与えないでくれ。首でも鉱山でも何でも差し出すとエドワードに伝えてくれ」
「アーサー?!ちょっと、何、言ってんだよ。首って、鉱山って」
「アハハ。そうですよ」
門の隙間から、ぬうっと手を出してきた男は、楽し気にアーサーの肩を叩いた。
「貴方が死んでしまったら、そのドメインは、今後どうするんです?どうせなら、心中した方が、お互い幸せでは?」
「……君は、何者だ?」
「王立警ら隊副隊長のラリーです。殿下に言われてお迎えに上がりました。いや~。殿下は、ドメイン使いが荒い。本日は、ダニエル元伯爵のところと貴方のところを二往復です」
「ダニエル?彼も、ベックス宮殿に?」
「ええ。ルシウスも一緒に」
「彼らは何も関係ないだろう。ダニエルはベリルの治療にあたっただけだ。ルシウスなんて、本当に無関係だ」
ラリーは、御者に向かって手を上げ、馬車を呼びよせる。
「殿下の考えていることは分かりません。だから、僕も知りたいんですよ」
「王立警ら隊の隊員は、エドワード自ら選んでいるんだろう?その副隊長なら、信任は厚いはずだ」
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