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第五章 アーサー
111:別に頑張っちゃ……。うーん、頑張ったかも。
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シファーチェは、アーサーがトータル千人を軽く超えて会って来たオールドドメインの中で、初めて心掴まれた相手だ。
だぶん、寂しさのせいで恋を知らずに身体を重ねてしまったアーサーにとって、初めての恋といえた。
シファーチェが公爵のランクとなった日、アーサーは、鹿の園のオーナーに買い取りを申し出た。
デビューしてたった四ヶ月。異国の王侯貴族が避暑にやってきて、シファーチェにぞっこんになったという幸運も手伝って、不動の王、ルシウスの後ろ姿も見えてきた。
ギッシリ詰まった予約は、売れない男娼からしたら羨ましいかもしれない。しかし、シファーチェはハードな毎日に、日に日に痩せていく。顔も青白くなり、アーサーといるときは、眠ってばかりいる。そのときも、うなされたり叫んだりと、しっかり休めているようには見えない。
---こんなの、嫌だああ。こんなの……。
出会った日の夜、そう叫んで泣いていたシファーチェは、どんなに売れっ子になっても男娼は肌に合っていない。
身体にも心にも、限界が来ている、とアーサーは感じていた。
しかし、鹿の園のオーナーは、シファーチェを王のランクになるまで働かせると断固譲らなかった。
ならば、鉱山を売ろう。
一つは、シファーチェの買い取りのため。
そしてもう一つは、シファーチェのスクリーニングにかかる費用のため。
両親が残してくれた複数の鉱山の内、カナダにある二山を、アーサーは売りに出すことに決めた。
しかし、買いたいと手が上がるものの、値段で折り合わない。
こんなことしている間にもシファーチェは、心をすり減らしていく。
じりじりと時間だけが過ぎて行き、シファーチェを指名しようにも、リッチモンドという客がシファーチェを独占していて会えない日々が続いた。
ようやく会えた日は、二人が出会ってちょうど五か月目だった。シファーチェはルシウスから王の座を奪い、鹿の園の頂点に君臨していた。
「そんなに頑張らなくて良かったのに」
鹿の園で、一番広くて高級な王の部屋に向かいながらアーサーが言うと、
「だってさ。オーナーが、公爵のランクでアーサーがどうしても買い取るなら、王のときの買い取り値段の倍を要求するとかわけわかんないこと言うし」
「それで、頑張っちゃったか」
「別に頑張っちゃ……。うーん、頑張ったかも。アーサーにこれ以上、迷惑をかける訳にはいかないし」
アーサーは愛おしくて堪らなくなり、シファーチェの頬に手を伸ばす。擦ってあげると、気持ちよさそうな顔をした。
「カナダの鉱山、売りに出したんだ。買い手がようやく決まって、数日後にカナダまで契約を交わしてくる。向うに住んでいる実業家でね、鉱山のことにも詳しいから安心して手放せそうだ」
「本当に?!」
「ああ。契約はもう決まったようなものだから、もう少しで自由の身になれるよ」
シファーチェの目に、見る見る涙が溢れ出し、「うわあっ」と声を上げて彼は泣き出す。
アーサーは、シファーチェを抱きしめながら、近くのリネン室に入りこんだ。泣き止むまでずっと、背中を撫でてあやし続ける。
「もうちょっとだよ。もうちょっとだけだから。もう、あんなこと、しなくていい生活になるからね」
「ア、アーサーとは、する。絶対に、する」
だぶん、寂しさのせいで恋を知らずに身体を重ねてしまったアーサーにとって、初めての恋といえた。
シファーチェが公爵のランクとなった日、アーサーは、鹿の園のオーナーに買い取りを申し出た。
デビューしてたった四ヶ月。異国の王侯貴族が避暑にやってきて、シファーチェにぞっこんになったという幸運も手伝って、不動の王、ルシウスの後ろ姿も見えてきた。
ギッシリ詰まった予約は、売れない男娼からしたら羨ましいかもしれない。しかし、シファーチェはハードな毎日に、日に日に痩せていく。顔も青白くなり、アーサーといるときは、眠ってばかりいる。そのときも、うなされたり叫んだりと、しっかり休めているようには見えない。
---こんなの、嫌だああ。こんなの……。
出会った日の夜、そう叫んで泣いていたシファーチェは、どんなに売れっ子になっても男娼は肌に合っていない。
身体にも心にも、限界が来ている、とアーサーは感じていた。
しかし、鹿の園のオーナーは、シファーチェを王のランクになるまで働かせると断固譲らなかった。
ならば、鉱山を売ろう。
一つは、シファーチェの買い取りのため。
そしてもう一つは、シファーチェのスクリーニングにかかる費用のため。
両親が残してくれた複数の鉱山の内、カナダにある二山を、アーサーは売りに出すことに決めた。
しかし、買いたいと手が上がるものの、値段で折り合わない。
こんなことしている間にもシファーチェは、心をすり減らしていく。
じりじりと時間だけが過ぎて行き、シファーチェを指名しようにも、リッチモンドという客がシファーチェを独占していて会えない日々が続いた。
ようやく会えた日は、二人が出会ってちょうど五か月目だった。シファーチェはルシウスから王の座を奪い、鹿の園の頂点に君臨していた。
「そんなに頑張らなくて良かったのに」
鹿の園で、一番広くて高級な王の部屋に向かいながらアーサーが言うと、
「だってさ。オーナーが、公爵のランクでアーサーがどうしても買い取るなら、王のときの買い取り値段の倍を要求するとかわけわかんないこと言うし」
「それで、頑張っちゃったか」
「別に頑張っちゃ……。うーん、頑張ったかも。アーサーにこれ以上、迷惑をかける訳にはいかないし」
アーサーは愛おしくて堪らなくなり、シファーチェの頬に手を伸ばす。擦ってあげると、気持ちよさそうな顔をした。
「カナダの鉱山、売りに出したんだ。買い手がようやく決まって、数日後にカナダまで契約を交わしてくる。向うに住んでいる実業家でね、鉱山のことにも詳しいから安心して手放せそうだ」
「本当に?!」
「ああ。契約はもう決まったようなものだから、もう少しで自由の身になれるよ」
シファーチェの目に、見る見る涙が溢れ出し、「うわあっ」と声を上げて彼は泣き出す。
アーサーは、シファーチェを抱きしめながら、近くのリネン室に入りこんだ。泣き止むまでずっと、背中を撫でてあやし続ける。
「もうちょっとだよ。もうちょっとだけだから。もう、あんなこと、しなくていい生活になるからね」
「ア、アーサーとは、する。絶対に、する」
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