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第五章 アーサー
104:オレ、ついていきたい。がんばって起きているから、隣にいていい?
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「こっちもダイヤモンドなんだよ。ブラックダイヤモンドと呼ばれている。ギリシャ語で征服できないが語源」
「へえ、格好いいな!」
「これは、エドワードと未来の伴侶がペアで付けることになると思う。たぶん、相手はメアリーかな」
「誰?どんな人?」
「僕とエドワードと同い年の女性で、彼女もテロに遭ってね。辛い時期を乗り越えて来た仲間だ。といっても、僕は途中で離脱してしまったから、合わせる顔がないけれどね」
ドンッと肩でベリルがぶつかってくる。
「アーサーはいつもそういうことばかり言う。でも、きっと周りはそんな風に思っていないって。オレのために、細やかな準備をしてくれていたじゃないか。そういうこと、みんなにもしてきたんだろう、きっと」
ベリルはブラックダイヤモンドをジュエリーケースに戻すと、今度は赤色の宝石をピンセットで取った。
「これはルビーだよな」
「そうだね。コランダムという鉱物からできていて、クロムを含むと赤くなる。この青色の宝石も同じ種類だ」
「え?これはサファイアだろ?」
「サファイアは、コランダムが鉄とチタンを含んだものだからね」
「含むものが違うだけで、元は同じなんだな。色も照りも違うのに、不思議だ」
「ルビーは、情熱と愛情。サファイアは、堅固な愛。どちらも愛を司る石なんだよ」
アーサーも白手袋を付けて、緑と黄色の石を手のひらに乗せた。
「ベリルは?なあ、ベリルは?」
待っていましたとばかりに、同じ名を持つ少年は嬉しそうに声を上げる。
「ベリルは、ベリリウム鉱物の総称で、アクアマリンやエメラルドもその中に含まれる。純粋なベリルは無色。ゴシュナイトと呼ばれる。そこに鉄分が入れば、水色に発色してアクアマリンに、クロムやバナジウムが入ればエメラルドになる。ピンクはモルガナイト。黄色は、ゴールデンベリル」
「同じ鉱物なのに、全然、色や光り方が違うんだな。でも、どれも綺麗だ」
「そうだね。ベリルは、高貴な石として紀元前から使用されてきた。成長を司るともに、本質を見極める石と言われている」
「本質かあ」
ベリルは、アーサーの手のひらの緑色の宝石を、ピンセットで摘んで光りにかざす。
「色んな名前であっても、ベリリウム鉱物に違いないもんな。アーサーに宝石のことを学ぶの、すごく楽しい」
純粋な笑顔を見せられて、アーサーは嬉しくなる。
「僕もずっと、ベリルとこうしていたい気分だ」
「あれ?もしかして、今日はこれから商用?だったら、明け方までかかっても、オレ、ついていきたい。がんばって起きているから、隣にいていい?」
アーサーは首を振った。
「ベリルと一緒の時間をなるべく多く取りたいから、暫く、商用には出かけない。本当は、もっと早くこうしたかったんだけど、どうしてもこなさなければいけない仕事が溜まっていてね」
ベリルがまだシファーチェと呼ばれていた頃、大学生の修士課程で学んでいたアーサーは、早く一人前の宝石商になろうと決意した。
鹿の園狂いのアーサーが父親の跡を継いで宝石商に?と蔑んでくる貴族もいたが、ベリルのためなら何だって耐えられた。
十才の頃からテロに遭うまでの二年間、父親の宝石商助手をした経験や、宝石のデザインを早くから勉強していたこともあって、仕事は軌道に乗り始めていた。
しかし、七度目のベリルの目覚めの日、仕事の整理が必要だと感じた。
「へえ、格好いいな!」
「これは、エドワードと未来の伴侶がペアで付けることになると思う。たぶん、相手はメアリーかな」
「誰?どんな人?」
「僕とエドワードと同い年の女性で、彼女もテロに遭ってね。辛い時期を乗り越えて来た仲間だ。といっても、僕は途中で離脱してしまったから、合わせる顔がないけれどね」
ドンッと肩でベリルがぶつかってくる。
「アーサーはいつもそういうことばかり言う。でも、きっと周りはそんな風に思っていないって。オレのために、細やかな準備をしてくれていたじゃないか。そういうこと、みんなにもしてきたんだろう、きっと」
ベリルはブラックダイヤモンドをジュエリーケースに戻すと、今度は赤色の宝石をピンセットで取った。
「これはルビーだよな」
「そうだね。コランダムという鉱物からできていて、クロムを含むと赤くなる。この青色の宝石も同じ種類だ」
「え?これはサファイアだろ?」
「サファイアは、コランダムが鉄とチタンを含んだものだからね」
「含むものが違うだけで、元は同じなんだな。色も照りも違うのに、不思議だ」
「ルビーは、情熱と愛情。サファイアは、堅固な愛。どちらも愛を司る石なんだよ」
アーサーも白手袋を付けて、緑と黄色の石を手のひらに乗せた。
「ベリルは?なあ、ベリルは?」
待っていましたとばかりに、同じ名を持つ少年は嬉しそうに声を上げる。
「ベリルは、ベリリウム鉱物の総称で、アクアマリンやエメラルドもその中に含まれる。純粋なベリルは無色。ゴシュナイトと呼ばれる。そこに鉄分が入れば、水色に発色してアクアマリンに、クロムやバナジウムが入ればエメラルドになる。ピンクはモルガナイト。黄色は、ゴールデンベリル」
「同じ鉱物なのに、全然、色や光り方が違うんだな。でも、どれも綺麗だ」
「そうだね。ベリルは、高貴な石として紀元前から使用されてきた。成長を司るともに、本質を見極める石と言われている」
「本質かあ」
ベリルは、アーサーの手のひらの緑色の宝石を、ピンセットで摘んで光りにかざす。
「色んな名前であっても、ベリリウム鉱物に違いないもんな。アーサーに宝石のことを学ぶの、すごく楽しい」
純粋な笑顔を見せられて、アーサーは嬉しくなる。
「僕もずっと、ベリルとこうしていたい気分だ」
「あれ?もしかして、今日はこれから商用?だったら、明け方までかかっても、オレ、ついていきたい。がんばって起きているから、隣にいていい?」
アーサーは首を振った。
「ベリルと一緒の時間をなるべく多く取りたいから、暫く、商用には出かけない。本当は、もっと早くこうしたかったんだけど、どうしてもこなさなければいけない仕事が溜まっていてね」
ベリルがまだシファーチェと呼ばれていた頃、大学生の修士課程で学んでいたアーサーは、早く一人前の宝石商になろうと決意した。
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十才の頃からテロに遭うまでの二年間、父親の宝石商助手をした経験や、宝石のデザインを早くから勉強していたこともあって、仕事は軌道に乗り始めていた。
しかし、七度目のベリルの目覚めの日、仕事の整理が必要だと感じた。
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