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第五章 アーサー
103:もう一回、見ていいか?
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そして、パッと離れて「銀の箱な!すぐ取ってくる!」と小走りに部屋を出て行ってしまった。
まだ、背中全体にベリルの感触が残っている。
ベリルの過去への拒絶反応は、過去六回の状態から見てもわかるように、恐ろしく強い。
まるで、適合してはならない臓器を移植したかのように、激しい反応を見せる。
今のドメイン再生医療でできる最大限のスクリーニングをダニエルにしてもらったが、男娼をしていたという事実は、細胞のかなり深い部分に刻み込まれているようで、記憶や細胞情報を取りきることはできなかった。
まるで細胞のそのさらに奥に気高さという印が刻印されているかのように、目を背けたい過去に直面すると、手の施しようのない痙攣を起こす。
アーサーは、隣の部屋の扉が開いた音を聞いてから、タブレットを手に取った。
サーチエンジンのページに飛んで、直前の検索ワードを調べる。
サーチエンジンは、ニュースサイトも兼ねていて、検索窓の下には、最新ニュースがずずらりと並んでいる。
トップニュースは、『三年前流出の機密データ、王立細胞研究所に戻る。殿下所有のオールドドメイン男娼がついにありかを供述』とある。
殿下所有のオールドドメイン男娼とは、バロンのことだ。
そうか、彼がずっと持っていたのか。
しかし、記事を読んでも、その機密データを利用されドメインが造られたという事実は書かれていない。
当たり前だ。そんなことがあれば、世界に激震が走る。
機密データの中身は、王族らの核細胞データなのだから。
アーサーは暗い気持ちで、検索窓をダブルクリックする。
ベリルがいじっていなければ、『世界の鉱山』が直近のワードとして出てくるはずだ。
だが、検索履歴には、『鹿の園 男娼』という言葉が表示されていた。
「そうだよね。知りたいよね」
今はまだ、大きな拒絶反応は現れていない。
それが、アーサーには奇跡に思える。
今までのベリルだったら、絶対に耐えられなかったはずだ。
「ベリルは強くなったかもしれない。なのに、僕は……」
ルシウスに連れられて行った鹿の園で、激しい痙攣を起こしていると聞いたとき、アーサーは心臓が止まりそうになった。
何度もスクリーニングを繰り返したベリルの身体は、すでに耐用末期の最終レベルまできている。
今度こそ助からない。
本当にそう思った。
あの晩のことを思い出すと、鼻の奥がツンとする。
瞳が濡れて来て拭っていると、パタパタと駆ける音が聞こえて来て、アーサーにぶつかるようにしてベリルが隣に座ってきた。
いけない。
また、泣いていると心配をかけてしまう。
「持って来たよ」
隣りに座ったベリルは、じゃれるようにグイグイと肘でアーサーを押してくる。
「もう一回、見ていいか?」
ベリルは、ジュエリーケースを開けると、うっとりした顔をする。
白、黒、赤、青、緑、黄色の宝石が、貸金庫で見たときから気になっているらしい。
白手袋をして、ピンセットで摘んで指輪型のルーペを指にはめ、見始める。
宝石商の助手姿もすっかり板についてきた。
「白は、ダイヤモンドってすぐわかる。じゃあ、黒は?」
まだ、背中全体にベリルの感触が残っている。
ベリルの過去への拒絶反応は、過去六回の状態から見てもわかるように、恐ろしく強い。
まるで、適合してはならない臓器を移植したかのように、激しい反応を見せる。
今のドメイン再生医療でできる最大限のスクリーニングをダニエルにしてもらったが、男娼をしていたという事実は、細胞のかなり深い部分に刻み込まれているようで、記憶や細胞情報を取りきることはできなかった。
まるで細胞のそのさらに奥に気高さという印が刻印されているかのように、目を背けたい過去に直面すると、手の施しようのない痙攣を起こす。
アーサーは、隣の部屋の扉が開いた音を聞いてから、タブレットを手に取った。
サーチエンジンのページに飛んで、直前の検索ワードを調べる。
サーチエンジンは、ニュースサイトも兼ねていて、検索窓の下には、最新ニュースがずずらりと並んでいる。
トップニュースは、『三年前流出の機密データ、王立細胞研究所に戻る。殿下所有のオールドドメイン男娼がついにありかを供述』とある。
殿下所有のオールドドメイン男娼とは、バロンのことだ。
そうか、彼がずっと持っていたのか。
しかし、記事を読んでも、その機密データを利用されドメインが造られたという事実は書かれていない。
当たり前だ。そんなことがあれば、世界に激震が走る。
機密データの中身は、王族らの核細胞データなのだから。
アーサーは暗い気持ちで、検索窓をダブルクリックする。
ベリルがいじっていなければ、『世界の鉱山』が直近のワードとして出てくるはずだ。
だが、検索履歴には、『鹿の園 男娼』という言葉が表示されていた。
「そうだよね。知りたいよね」
今はまだ、大きな拒絶反応は現れていない。
それが、アーサーには奇跡に思える。
今までのベリルだったら、絶対に耐えられなかったはずだ。
「ベリルは強くなったかもしれない。なのに、僕は……」
ルシウスに連れられて行った鹿の園で、激しい痙攣を起こしていると聞いたとき、アーサーは心臓が止まりそうになった。
何度もスクリーニングを繰り返したベリルの身体は、すでに耐用末期の最終レベルまできている。
今度こそ助からない。
本当にそう思った。
あの晩のことを思い出すと、鼻の奥がツンとする。
瞳が濡れて来て拭っていると、パタパタと駆ける音が聞こえて来て、アーサーにぶつかるようにしてベリルが隣に座ってきた。
いけない。
また、泣いていると心配をかけてしまう。
「持って来たよ」
隣りに座ったベリルは、じゃれるようにグイグイと肘でアーサーを押してくる。
「もう一回、見ていいか?」
ベリルは、ジュエリーケースを開けると、うっとりした顔をする。
白、黒、赤、青、緑、黄色の宝石が、貸金庫で見たときから気になっているらしい。
白手袋をして、ピンセットで摘んで指輪型のルーペを指にはめ、見始める。
宝石商の助手姿もすっかり板についてきた。
「白は、ダイヤモンドってすぐわかる。じゃあ、黒は?」
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