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第四章 ダニエル
95:母の件といい、また、お前には裏切られた
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部屋も別々で、一緒に休むこともない。
「部屋に行ってもいいか?」と尋ねると、「ボクに仕事をしろっていうの?」と返してくる。
鹿の園を出ても、ダニエルと寝るのは仕事、という感覚らしい。
こちらは、パートナーとして扱っているつもりなのだが。
どこかで通信機が鳴る音がした。
ベッドの下か、それともブランケットに紛れているのか。
探すのも面倒で、通信者の名前を見ないまま、とりあえず返事をする。
「……はい。ダニエル」
『何だ、その寝ぼけた声は?寝ていたのか?まだ夕方にもなっていないぞ』
声の主はエドワードだ。
やばい相手の通信を受けてしまった、とダニエルは思った。
エドワードはアーサーと鉢合わせしかけているのだ。
アーサーも来ていると告げなかったことを不審に思っているはずなのに、あの日、エドワードはバロンを連れてさっさと帰ってしまった。
裏切られるのが大嫌いで、昔はよく感情を爆発させていた奴が、大きな山みたいにだまって静かにしていることがダニエルには気持ちが悪い。山は実は休火山で、内部に怒りのマグマを溜めているように思えてならない。
だが、その怒りは絶対に収まらないかもしれないから、こちらから手の打ちようがないのだ。
「少し忙しくしてた」
ダニエルは床に落ちていた通信機をようやく探し出し、耳にかけた。
『先日は世話になった』
すぐにダニエルが避けたい話題になり、ドキッとする。
「バロンの火傷の痕、詳しく診察してやれなくて悪かったな」
すると、フッと笑う声が聞こえてくる。
『また、伺わせてもらう、と言うと思ったか?そんな面倒なことはしない。お前が王宮に来るのだから。まあ、バロンを診察できるかどうかはわからんがな。どういう意味かは、その胸に手を当てて聞いてみろ』
「アーサーのことか?あいつは、今、ちょっと厄介なドメインを抱えていて、あいつ自身も不安定で……だから、お前に会わせられなくて」
『東洋風なドメインだったな。名前は、ベリル。だが、最初の名前はシファーチェだ』
ダニエルはそこまで言われて覚悟した。
「エドワード。話を聞いてくれ」
『話?』
エドワードが吐き捨てる。
「目や髪、身長、体重をいじっても、ほとんど細胞情報は変わっていない。つまり、見た目が違う私そのものが、もう一体この世にいるということだ。最初は鹿の園で汚され、今度は、幼馴染の手で汚されてな」
「ちょっと待て。汚すだなんて、とんでもない。アーサーは、ベリルを本当に大切にしている」
『相変わらず他人事だな。お前は、考えたこともないだろう。自分のドメインがこの世に勝手に生み出され、見知らぬ男に汚されているという不快感を』
「完全にエドワードの気持ちに沿えないことは謝る。だが、」
『母の件といい、また、お前には裏切られた』
「違うっ」
『何が違う?責任感の強いお前のことだ。王立細胞研究所を辞めたといっても、ツテを頼ってこのドメインの元は誰なのかを確認したことだろう。再度、王族らの核細胞データは集められ、王立細胞研究所に登録しなおされているんだから』
「エドワード、聞いてくれ。俺とアーサーは……」
「部屋に行ってもいいか?」と尋ねると、「ボクに仕事をしろっていうの?」と返してくる。
鹿の園を出ても、ダニエルと寝るのは仕事、という感覚らしい。
こちらは、パートナーとして扱っているつもりなのだが。
どこかで通信機が鳴る音がした。
ベッドの下か、それともブランケットに紛れているのか。
探すのも面倒で、通信者の名前を見ないまま、とりあえず返事をする。
「……はい。ダニエル」
『何だ、その寝ぼけた声は?寝ていたのか?まだ夕方にもなっていないぞ』
声の主はエドワードだ。
やばい相手の通信を受けてしまった、とダニエルは思った。
エドワードはアーサーと鉢合わせしかけているのだ。
アーサーも来ていると告げなかったことを不審に思っているはずなのに、あの日、エドワードはバロンを連れてさっさと帰ってしまった。
裏切られるのが大嫌いで、昔はよく感情を爆発させていた奴が、大きな山みたいにだまって静かにしていることがダニエルには気持ちが悪い。山は実は休火山で、内部に怒りのマグマを溜めているように思えてならない。
だが、その怒りは絶対に収まらないかもしれないから、こちらから手の打ちようがないのだ。
「少し忙しくしてた」
ダニエルは床に落ちていた通信機をようやく探し出し、耳にかけた。
『先日は世話になった』
すぐにダニエルが避けたい話題になり、ドキッとする。
「バロンの火傷の痕、詳しく診察してやれなくて悪かったな」
すると、フッと笑う声が聞こえてくる。
『また、伺わせてもらう、と言うと思ったか?そんな面倒なことはしない。お前が王宮に来るのだから。まあ、バロンを診察できるかどうかはわからんがな。どういう意味かは、その胸に手を当てて聞いてみろ』
「アーサーのことか?あいつは、今、ちょっと厄介なドメインを抱えていて、あいつ自身も不安定で……だから、お前に会わせられなくて」
『東洋風なドメインだったな。名前は、ベリル。だが、最初の名前はシファーチェだ』
ダニエルはそこまで言われて覚悟した。
「エドワード。話を聞いてくれ」
『話?』
エドワードが吐き捨てる。
「目や髪、身長、体重をいじっても、ほとんど細胞情報は変わっていない。つまり、見た目が違う私そのものが、もう一体この世にいるということだ。最初は鹿の園で汚され、今度は、幼馴染の手で汚されてな」
「ちょっと待て。汚すだなんて、とんでもない。アーサーは、ベリルを本当に大切にしている」
『相変わらず他人事だな。お前は、考えたこともないだろう。自分のドメインがこの世に勝手に生み出され、見知らぬ男に汚されているという不快感を』
「完全にエドワードの気持ちに沿えないことは謝る。だが、」
『母の件といい、また、お前には裏切られた』
「違うっ」
『何が違う?責任感の強いお前のことだ。王立細胞研究所を辞めたといっても、ツテを頼ってこのドメインの元は誰なのかを確認したことだろう。再度、王族らの核細胞データは集められ、王立細胞研究所に登録しなおされているんだから』
「エドワード、聞いてくれ。俺とアーサーは……」
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