上 下
94 / 281
第四章 ダニエル

94:どっからその自信

しおりを挟む
「ルシウス、お前さ。この仕事を天職だと思って、毎日励んでいるわけじゃねえだろ?俺だって会えない時間、お前が他の客に抱かれているかと思うと気が狂いそうになる。だから、いっそのこと、スパッとこの仕事、止めねえか?」
すると、ルシウスがダニエルの足を蹴った。
「ドメイン法一条。ドメインは必ず所有者を持って存在し、所有者の命令に従う。ボクの所有者は、あのイタリア人のいかすかないオーナー」
「俺が買い取る」
「ええっ?!だって、君、アルバイトなんだろ。どうにかこうにか工面して、ボクの元に通っているだろ?きっとよくないところから借りた金が返せなくなって、そのうち、ボクに泣きついてきて……」
「ルシウス君。勝手なストーリーを作るな」
ダニエルはグリグリとルシウスの頭を撫でまわす。
「らしくないって言われると思ってなかなか言えなかったんだが、俺、爵位持ち。ちょっとやらかして剥奪されちゃったけどな。あと、王立細胞研究所所長。これもちょっとやらして退職」
「嘘だ、嘘だ。そんなのあり得ないよ。嘘をつくならもっと上手について欲しんだけど?!」
訳が分からなくなったのか、ルシウスは、ゴンゴンとダニエルの胸に額をぶつけてくる。
「イテテテッ。お前は発情期の鹿か!オーナーに言ったら、いい頃合いじゃないかって返事だった。びっくりする額を提示されたけどな」
「どうするの?」
「テロに遭ったときの王家からの見舞金と王立細胞研究所の退職金でお前の買い取りはなんとかなる」
「ボクが、耐用末期になったら?スクリーニング費用相当かかるよ?」
「お前が、スクリーニングで記憶を失くしてしまうのは嫌だ。けれど、お前自身を失うのはもっと嫌だ。だから、ラボを開いて繁盛させる」
「どっからその自信」
「ルシウス。承諾の返事は?」
「舞い上がってるところに水を差すようで悪いけど、買い取られて、やっぱ飽きたって所有者に言われて出戻って来た男娼、いっぱい知っているよ。それに、ボクは、色んなところから申し出があったけど、断って来た。どんどんボクの買い取り価格は値上がりしていって、今やプレミア状態」
「じゃあ、オレが初めてルシウス君の承諾を受ける人間になるんだ」
「そのルシウス君っていうの、止めて」
「ハハハ。照れてやがる」
ダニエルはルシウスの額に唇を落とす。
「もう少し、この麻薬みたいな恋を楽しみたかったのに、ダニエルのせいで、終わりが早まっちゃったじゃないか」
「新しく何か始まるかもしれないぜ?」
ルシウスはダニエルが買い取りを申し出ても飛びついて喜んだり、涙を流したりはしないと思っていたが、こんなにボルテージが低いとは思いもよらなかった。
 
目を覚ますと、寝室には西日が差し込んでいた。
ルシウスを連続で抱いて、体力が尽きて眠ってしまったらしい。
まだ醒めない意識の中で、隣をまさぐると、冷たい敷布を感じるばかりだった。
ルシウスは先に目覚めて、自室にシャワーを浴びに行ってしまったのだろう。そして、そっちで休むはずだ。
一緒に暮らし始めて、鹿の園時代のような激しい身体の合わせ方は減った。
ダニエルはラボを開いて維持していくことに精いっぱいだったし、ルシウスも求めて来なくなったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん
BL
侯爵家次男のヴァン・ミストラルは貴族界で出来損ない扱いされている。 なぜならば精霊の国エスプリヒ王国では、貴族は多くの精霊からの加護を得ているのが普通だからだ。 ところが、ヴァンは風の精霊の加護しか持っていない。 とうとうそれを理由にヴァンは婚約破棄されてしまった。 だがその場で王太子ギュスターヴが現れ、なんとヴァンに婚約を申し出たのだった。 なんで!? 初対面なんですけど!?!?

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

処理中です...