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第四章 ダニエル

89:だって、名前、ルシウス(悪魔)だし。

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絵やブロンズ像など、豪華な調度品に溢れた居間。それに奥には食堂。真反対には天蓋付きの大きなベッド。大人三人寝たって十分なスペースがある。
「ボクの部屋。ま、王のランクじゃなくなれば、明け渡さなければならないけれどね」
ルシウスは、ダニエルを寝室へと引っ張っていく。そして、ベッドの端に腰掛けさせた。
「……」
「……」
二人して無言で見つめ合う。
「あのさ、俺、寝たい……」
「ちょっと、足を広げて。間に入るから」
「寝たいって、身体を重ねたいと誘ってるわけじゃねえ」
「いいから」
仕方なく肩幅まで開くと、ルシウスが猫みたいにするりと入ってきて、ダニエルの手を掴んで自分の腰を掴ませた。
細い。
いくら疲れで半分意識が飛んでいる状態のダニエルでも、サワサワとまさぐりたくなる。
それに、いい匂いがする。
この手の職業についているものは、香水を浴びたのかというぐらいきつく香らせているが、ルシウスはかすかだ。とても品のいい花の香りがする。
ゴツッとダニエルの額に、ルシウスが自分の額をぶつけてきた。
「綺麗なお顔が、俺の皮脂で汚れんぞ」
とダニエルが言っても「ボクさ」と無視してルシウスは話し始める。
「ロボットじゃないからさ、身体が反応するサプリメントを飲んでるだけど、今日は一見の細客で、次はないだろうと思って飲まなかったんだ。でも、身体が反応している」
ルシウスの言うことが本当なのか、嘘なのか、ダニエルには分からない。
ただ、瞳に魅入られてしまって「……そうか」とだけ答える。
すると、ルシウスがゴツッゴツッと先ほどより強く額をぶつけて来た。
「だったら、触って確かめてあげるねとか、そういう気の利いたセリフ、言えないわけ?」
「痛てえっ。俺の頭蓋骨、割る気か。飛んでもねえ石頭だ」
ナンバーワン男娼と客という立場なのに、色気のない行動と会話がおかしくて、二人は同時に噴き出してしまった。
―――やばい。
こんなに密着しているのに、まるで親しい友人のような雰囲気が、いつの間にか出来上がっている。
このままでは、心を掴まれてしまうっ。
こいつは、まるで人間だ。
ダニエルは無理やり視線を逸らす。
「離れてくれ。三十時間も働いて、自分でも臭いって分かっているんだ」
「うん、雄の匂いがする」
ルシウスは、ダニエルの頭を抱き込んで、クンクンと嗅ぎ始める。
「馬鹿っ。止めろって」
羞恥に駆られ腕の中でもがくと、ルシウスがダニエルの顎を取って視線を絡めてきた。
「すごく、そそる」
このままでは本当にやばい。
ダニエルは焦った。
いくら鹿の園の王でも、その祖先は自分が作り出したものだと高をくくっていた。
おそらく何万回という対人パターンを繰り返し、人間の心を掴むスキルが悪魔レベルで発達している。
だって、名前、ルシウス(悪魔)だし。
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