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第四章 ダニエル
87:無駄、無駄。俺はナンバーワンを一目見たら、すぐ休ませてもらうわ
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フル回転で使い続けた頭はヒートしていて、自動運転のタクシーを呼ぶ気力もないありさまだった。
「鹿の園って確か正装だよな?俺、ヨレヨレの白衣姿なんだけど」
『なら、こっちで用意しておく。鹿の園の東門前な。人生に一度は絶対に見ておくべきだって!人間が生み出した傑作だ。例えるなら、天使!』
「口が悪くて、不愛想で客を足蹴にして、大金を使わせのが天使か?」
通信が途切れ、ダニエルは笑いながら独り言を言う。
第三次世界大戦で、ドメインの存在は認知され、終戦後は、崩れた街の復興業務や、生活弱者への医療や家事業務を行い、すっかり人間の生活に溶け込んでいた。
クラッシックシティーでは人間とドメインの格差が激しいが、一歩外に出れば、道端で手を繋いだり、キスをしているところはしょっちゅう見る。ドメインのお蔭で孤独が減ったというデータを見れば、予想外な方面で役に立っているのかと嬉しく思う。
『我々は増殖する』と世界最古のドメインの願い通り、第三次世界大戦に突入し爆発的な勢いで、ドメインは増えた。今のところ彼らが、何か大きなことをしでかしたという事件は起っていない。
何をそこまで恐れているのだろうという思いを、ダニエルはここまでしてくれた友人の顔を立ててやらなければなるまいという気持ちにすり替えた。
作成者が作成物を恐れるなんて、ナンセンスだ、と。
「ルシウスっていうのは、悪魔ルシファーのローマ読みだ。どんな悪魔があらわれることやら」
友人がルシウスを、そしてダニエルが別の男娼を抱くことになるだろうが、自分は何もせずに寝かせてもらおう。
ダニエルはそう思い、ちょうどよくやってきた流しの馬車に手を上げた。
鹿の園の東門前で待っていた友人と合流し、スーツに着替える。
「こういう言い方、傷つけるかもしれないけどさ、なんか、お前、臭いよ?」
「たぶん、お疲れ臭だと思う」
「おいおい、頼むって。髭くらいちゃんと剃ってこいよ。顔だって皮脂でテカっているし。髪もボサボサだ」
友人は、皮脂取り用シートやフリスクをダニエルに渡し、持っていた整髪料と櫛を使い髪を撫でつけて来た。
「さらに変になった」
「無駄、無駄。俺はナンバーワンを一目見たら、すぐ休ませてもらうわ」
「十分位なら話しをしていいんだぞ」
「その間に寝ちまう。悪魔の機嫌を損ねたら、面倒なことになるんだろう?」
「天地が裂けるレベルのことが起るだろうな」
友人はテンションが上がってきたのか、足取りがやたら軽い。
鹿の園の玄関口で、タキシードを身に着けた青年たちが迎えてくれた。廊下を歩き八角形の広いホールに辿りつく。仕切りが各所にあり、見知った顔が出入りする様をダニエルは見た。
ソファーに座り、出された飲み物を飲んで待っていると、バンッといきなり仕切りがダニエルに向かって倒れて来た。
「痛っ」
後頭部を擦っていると、背後で「おい、細客っ!」と声がする。
肩までの金髪、透き通るような青い目をした少年が、今にも怒りを大爆発させそうな表情で立っていた。どうやら彼が仕切りを倒してきたらしい。
細客とは、リピーターにもならない、指名時間も短い一見客の隠語だ。
逆の客は、太客と呼ばれる。
しかし、どちらのワードも普通は面と向かって客には言わない。
「うわあっ、ルシウスだ」
と友人は感極まりすぎて、ソファーから落ちそうになっている。
「鹿の園って確か正装だよな?俺、ヨレヨレの白衣姿なんだけど」
『なら、こっちで用意しておく。鹿の園の東門前な。人生に一度は絶対に見ておくべきだって!人間が生み出した傑作だ。例えるなら、天使!』
「口が悪くて、不愛想で客を足蹴にして、大金を使わせのが天使か?」
通信が途切れ、ダニエルは笑いながら独り言を言う。
第三次世界大戦で、ドメインの存在は認知され、終戦後は、崩れた街の復興業務や、生活弱者への医療や家事業務を行い、すっかり人間の生活に溶け込んでいた。
クラッシックシティーでは人間とドメインの格差が激しいが、一歩外に出れば、道端で手を繋いだり、キスをしているところはしょっちゅう見る。ドメインのお蔭で孤独が減ったというデータを見れば、予想外な方面で役に立っているのかと嬉しく思う。
『我々は増殖する』と世界最古のドメインの願い通り、第三次世界大戦に突入し爆発的な勢いで、ドメインは増えた。今のところ彼らが、何か大きなことをしでかしたという事件は起っていない。
何をそこまで恐れているのだろうという思いを、ダニエルはここまでしてくれた友人の顔を立ててやらなければなるまいという気持ちにすり替えた。
作成者が作成物を恐れるなんて、ナンセンスだ、と。
「ルシウスっていうのは、悪魔ルシファーのローマ読みだ。どんな悪魔があらわれることやら」
友人がルシウスを、そしてダニエルが別の男娼を抱くことになるだろうが、自分は何もせずに寝かせてもらおう。
ダニエルはそう思い、ちょうどよくやってきた流しの馬車に手を上げた。
鹿の園の東門前で待っていた友人と合流し、スーツに着替える。
「こういう言い方、傷つけるかもしれないけどさ、なんか、お前、臭いよ?」
「たぶん、お疲れ臭だと思う」
「おいおい、頼むって。髭くらいちゃんと剃ってこいよ。顔だって皮脂でテカっているし。髪もボサボサだ」
友人は、皮脂取り用シートやフリスクをダニエルに渡し、持っていた整髪料と櫛を使い髪を撫でつけて来た。
「さらに変になった」
「無駄、無駄。俺はナンバーワンを一目見たら、すぐ休ませてもらうわ」
「十分位なら話しをしていいんだぞ」
「その間に寝ちまう。悪魔の機嫌を損ねたら、面倒なことになるんだろう?」
「天地が裂けるレベルのことが起るだろうな」
友人はテンションが上がってきたのか、足取りがやたら軽い。
鹿の園の玄関口で、タキシードを身に着けた青年たちが迎えてくれた。廊下を歩き八角形の広いホールに辿りつく。仕切りが各所にあり、見知った顔が出入りする様をダニエルは見た。
ソファーに座り、出された飲み物を飲んで待っていると、バンッといきなり仕切りがダニエルに向かって倒れて来た。
「痛っ」
後頭部を擦っていると、背後で「おい、細客っ!」と声がする。
肩までの金髪、透き通るような青い目をした少年が、今にも怒りを大爆発させそうな表情で立っていた。どうやら彼が仕切りを倒してきたらしい。
細客とは、リピーターにもならない、指名時間も短い一見客の隠語だ。
逆の客は、太客と呼ばれる。
しかし、どちらのワードも普通は面と向かって客には言わない。
「うわあっ、ルシウスだ」
と友人は感極まりすぎて、ソファーから落ちそうになっている。
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