【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

文字の大きさ
上 下
86 / 280
第四章 ダニエル

86:今夜、奇跡的に鹿の園ナンバーワンの予約が取れたんだよ

しおりを挟む
ダニエルは十四才で王立細胞研究所に迎え入れられたのち、順調な出世をし二十代初めで所長になっていた。
しかし、機密データが流出し、責任を取って辞職。爵位も議会の口出しにより剥奪されてしまった。
王立細胞研究所は、王家と議会が半分ずつ資金を出し合って作ったものなので、トップシークレットのデータが盗みだされ、今後、世界がどうなるか分からない損害を与えたとなっては、爵位など持つべき人間ではないという判断だったのだろう。王家からの反対もなく、あっさりとダニエルはただの人となった。
テロに巻き込まれ母親が即死し、王立細胞研究所務めだった父親も数年後に死んで、王家からは多額の見舞金も支払われていたし、王立細胞研究所からは、長年の功績に免じて退職金代わりに一時金が支払われた。
正直、自分に貼りついていた色んなものがごっそりと取り払われ、ダニエルはほっとしていた。
爵位があればあったで、ステイタスとともに義務が生じる。
くだらないかと、いって欠席もできない、パーティーに、金をむしり取られる様々な慈善活動などだ。
また、王立細胞研究所は父親が立ち上げ、ダニエルは最年少で入所した天才少年と言われていたから、その通りだと思いつつプレッシャーも感じていた。
ただの人になってからも、ドメインの再生医療の記述や第一人者である自負はあった。
爵位は無くなっても、貴族階級と繋がりが無くなるわけではないから、ラボを開けば、繁盛させる自信はあった。濡れ手で粟を掴むように、客は簡単に見つけることができる。
はっきりいって、人生というゲームを急に上がらせられてしまった感じだった。
寝る間もないくらい忙しい時を過ごしてきたというのに、今度は、狂おしいほど暇になった。
だが、働きすぎた反動のせいか虚無感に襲われ、ラボを開く準備をするわけでもなく、ぼんやりと時を過ごしていた。
そんなとき、そこそこ仲のよい友人がダニエルを鹿の園に誘ってきた。
「今の王、凄いらしいから、今度拝みに行こうぜ」と。
鹿の園はアーサーが定宿としているところだ。
幼馴染の根城に行くのは気が引ける。
何より、世界最古のドメインを自分が造っているのだから、型は違えどそんなのと身体を合わせるなんて、まるで近親相姦みたいな感覚だった。
詳しく話を聞くと、通常半年ほどで入れ替わってしまう王の地位をそのドメインはもう二年も死守しているという。
口が悪く、不愛想。
客を足蹴にし、大金を使わせても、にこりともしない。
少しでも気にいらなければ、「帰れ」とのたまう。
これが、本当に男娼なのかよ、と友人から話を聞いていてダニエルは思った。
興味を覚えたが、鹿の園の王の予約は、普通には取れない。コネや権力を駆使して友人が奔走したがなしのつぶてで、ダニエルもいつの間にかそのことを忘れた。
暇を持て余し過ぎて知り合いのラボにアルバイトに出かけるようになり、王立細胞研究所時代のように朝も無く昼も無く働くようになって数か月、例の友人から通信でコンタクトを取って来た。
『おい、ダニエル!今から出て来られるか?今夜、奇跡的に鹿の園ナンバーワンの予約が取れたんだよ』
「今夜?」
三十時間休みなしに働いて、ようやくダニエルは家路についていた。
伯爵の地位を取り上げられ、住んでいたタウンハウスやカントリーハウスは手放し、今は、服装規定が緩いクラッシックシティーから少し離れたところで暮らしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】人型兵器は電気猫の夢を見るか?

有喜多亜里
BL
【猫キチ男が猫型ロボットを撫で回している、なんちゃってスペースファンタジー(コメディ寄り)】 別宇宙から現れて軍艦を襲う〝何か〟。その〝何か〟に対抗するため、天才少年博士ナイトリーは四体の人型兵器を作り、銀河系を四分する各勢力にパイロット供出を要請した。だが、二年後のある日、ナイトリーは謎の死を遂げてしまう。周囲は頭を抱えるが、パイロットの一人・カガミが飼っている猫型ロボットの中にナイトリーの記憶の一部が潜んでいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

ざまぁから始まるモブの成り上がり!〜現実とゲームは違うのだよ!〜

KeyBow
ファンタジー
カクヨムで異世界もの週間ランク70位! VRMMORゲームの大会のネタ副賞の異世界転生は本物だった!しかもモブスタート!? 副賞は異世界転移権。ネタ特典だと思ったが、何故かリアル異世界に転移した。これは無双の予感?いえ一般人のモブとしてスタートでした!! ある女神の妨害工作により本来出会える仲間は冒頭で死亡・・・ ゲームとリアルの違いに戸惑いつつも、メインヒロインとの出会いがあるのか?あるよね?と主人公は思うのだが・・・ しかし主人公はそんな妨害をゲーム知識で切り抜け、無双していく!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

処理中です...