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第四章 ダニエル
86:今夜、奇跡的に鹿の園ナンバーワンの予約が取れたんだよ
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ダニエルは十四才で王立細胞研究所に迎え入れられたのち、順調な出世をし二十代初めで所長になっていた。
しかし、機密データが流出し、責任を取って辞職。爵位も議会の口出しにより剥奪されてしまった。
王立細胞研究所は、王家と議会が半分ずつ資金を出し合って作ったものなので、トップシークレットのデータが盗みだされ、今後、世界がどうなるか分からない損害を与えたとなっては、爵位など持つべき人間ではないという判断だったのだろう。王家からの反対もなく、あっさりとダニエルはただの人となった。
テロに巻き込まれ母親が即死し、王立細胞研究所務めだった父親も数年後に死んで、王家からは多額の見舞金も支払われていたし、王立細胞研究所からは、長年の功績に免じて退職金代わりに一時金が支払われた。
正直、自分に貼りついていた色んなものがごっそりと取り払われ、ダニエルはほっとしていた。
爵位があればあったで、ステイタスとともに義務が生じる。
くだらないかと、いって欠席もできない、パーティーに、金をむしり取られる様々な慈善活動などだ。
また、王立細胞研究所は父親が立ち上げ、ダニエルは最年少で入所した天才少年と言われていたから、その通りだと思いつつプレッシャーも感じていた。
ただの人になってからも、ドメインの再生医療の記述や第一人者である自負はあった。
爵位は無くなっても、貴族階級と繋がりが無くなるわけではないから、ラボを開けば、繁盛させる自信はあった。濡れ手で粟を掴むように、客は簡単に見つけることができる。
はっきりいって、人生というゲームを急に上がらせられてしまった感じだった。
寝る間もないくらい忙しい時を過ごしてきたというのに、今度は、狂おしいほど暇になった。
だが、働きすぎた反動のせいか虚無感に襲われ、ラボを開く準備をするわけでもなく、ぼんやりと時を過ごしていた。
そんなとき、そこそこ仲のよい友人がダニエルを鹿の園に誘ってきた。
「今の王、凄いらしいから、今度拝みに行こうぜ」と。
鹿の園はアーサーが定宿としているところだ。
幼馴染の根城に行くのは気が引ける。
何より、世界最古のドメインを自分が造っているのだから、型は違えどそんなのと身体を合わせるなんて、まるで近親相姦みたいな感覚だった。
詳しく話を聞くと、通常半年ほどで入れ替わってしまう王の地位をそのドメインはもう二年も死守しているという。
口が悪く、不愛想。
客を足蹴にし、大金を使わせても、にこりともしない。
少しでも気にいらなければ、「帰れ」とのたまう。
これが、本当に男娼なのかよ、と友人から話を聞いていてダニエルは思った。
興味を覚えたが、鹿の園の王の予約は、普通には取れない。コネや権力を駆使して友人が奔走したがなしのつぶてで、ダニエルもいつの間にかそのことを忘れた。
暇を持て余し過ぎて知り合いのラボにアルバイトに出かけるようになり、王立細胞研究所時代のように朝も無く昼も無く働くようになって数か月、例の友人から通信でコンタクトを取って来た。
『おい、ダニエル!今から出て来られるか?今夜、奇跡的に鹿の園ナンバーワンの予約が取れたんだよ』
「今夜?」
三十時間休みなしに働いて、ようやくダニエルは家路についていた。
伯爵の地位を取り上げられ、住んでいたタウンハウスやカントリーハウスは手放し、今は、服装規定が緩いクラッシックシティーから少し離れたところで暮らしている。
しかし、機密データが流出し、責任を取って辞職。爵位も議会の口出しにより剥奪されてしまった。
王立細胞研究所は、王家と議会が半分ずつ資金を出し合って作ったものなので、トップシークレットのデータが盗みだされ、今後、世界がどうなるか分からない損害を与えたとなっては、爵位など持つべき人間ではないという判断だったのだろう。王家からの反対もなく、あっさりとダニエルはただの人となった。
テロに巻き込まれ母親が即死し、王立細胞研究所務めだった父親も数年後に死んで、王家からは多額の見舞金も支払われていたし、王立細胞研究所からは、長年の功績に免じて退職金代わりに一時金が支払われた。
正直、自分に貼りついていた色んなものがごっそりと取り払われ、ダニエルはほっとしていた。
爵位があればあったで、ステイタスとともに義務が生じる。
くだらないかと、いって欠席もできない、パーティーに、金をむしり取られる様々な慈善活動などだ。
また、王立細胞研究所は父親が立ち上げ、ダニエルは最年少で入所した天才少年と言われていたから、その通りだと思いつつプレッシャーも感じていた。
ただの人になってからも、ドメインの再生医療の記述や第一人者である自負はあった。
爵位は無くなっても、貴族階級と繋がりが無くなるわけではないから、ラボを開けば、繁盛させる自信はあった。濡れ手で粟を掴むように、客は簡単に見つけることができる。
はっきりいって、人生というゲームを急に上がらせられてしまった感じだった。
寝る間もないくらい忙しい時を過ごしてきたというのに、今度は、狂おしいほど暇になった。
だが、働きすぎた反動のせいか虚無感に襲われ、ラボを開く準備をするわけでもなく、ぼんやりと時を過ごしていた。
そんなとき、そこそこ仲のよい友人がダニエルを鹿の園に誘ってきた。
「今の王、凄いらしいから、今度拝みに行こうぜ」と。
鹿の園はアーサーが定宿としているところだ。
幼馴染の根城に行くのは気が引ける。
何より、世界最古のドメインを自分が造っているのだから、型は違えどそんなのと身体を合わせるなんて、まるで近親相姦みたいな感覚だった。
詳しく話を聞くと、通常半年ほどで入れ替わってしまう王の地位をそのドメインはもう二年も死守しているという。
口が悪く、不愛想。
客を足蹴にし、大金を使わせても、にこりともしない。
少しでも気にいらなければ、「帰れ」とのたまう。
これが、本当に男娼なのかよ、と友人から話を聞いていてダニエルは思った。
興味を覚えたが、鹿の園の王の予約は、普通には取れない。コネや権力を駆使して友人が奔走したがなしのつぶてで、ダニエルもいつの間にかそのことを忘れた。
暇を持て余し過ぎて知り合いのラボにアルバイトに出かけるようになり、王立細胞研究所時代のように朝も無く昼も無く働くようになって数か月、例の友人から通信でコンタクトを取って来た。
『おい、ダニエル!今から出て来られるか?今夜、奇跡的に鹿の園ナンバーワンの予約が取れたんだよ』
「今夜?」
三十時間休みなしに働いて、ようやくダニエルは家路についていた。
伯爵の地位を取り上げられ、住んでいたタウンハウスやカントリーハウスは手放し、今は、服装規定が緩いクラッシックシティーから少し離れたところで暮らしている。
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