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第三章 エドワード

83:俺が、殿下を介抱する日が来るなんて思いもしませんでしたよ

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バロンが気付いて、声を裏返す。
「もしかして、ここはアン女王のお部屋ですか?失礼しました。殿下が呼吸を乱されて、たまたま入り込んだ部屋がこちらで」
「ごきげんよう。素敵な夜ね」
女性は、バロンの言葉に全くそぐわない挨拶をし、指にはめていた指輪をスルスルと外した。そして、バロンの頬に触れてくる。
「あの……これは?」
「違う」
アンは低く呟くと、急に立ち上がった。
「ケビン首相とのお茶会の時間だわ」
エドワードはバロンの手を首を振って逃れた。
「このことは、首相に報告するな」
「命令ならば」
「命令だ」
女性は頷くと、まだ起き上がれないでいるエドワードを構うことなく部屋を出て行ってしまった。
「……あの、アン女王は殿下の血のつながった御母様ですよね?」
バロンは混乱している。
それは、そうだろう。
倒れた息子を無視し、ケビンとのお茶会を優先し部屋を出て行ってしまったんだから。
「そう……だが?」
「すみません」
出過ぎたことを聞いたと察したのか、バロンは謝ってくる。
このことは、未来永劫打ち明けることはできないのだ。
悪いな。
瞬きで合図をすると、バロンが静かに頷く。
「殿下がなかなかお戻りになられなくて、待ちきれなくなって執務室に向かってしまいました。そうしたら、扉が大きく明け放たれていて、タブレットも出しっぱなしで」
「……心配を、かけた」
「俺が、殿下を介抱する日が来るなんて思いもしませんでしたよ。あ、喋ってたほうがいいですか?それとも黙っていましょうか?」
「気が紛れるから、喋っていてくれ」
ようやく呼吸がまともになってきて、会話も楽にできるようになった。
枕にしているバロンの腿の柔らかさや、ぬくもりが伝わってくる。
「もうちょっと休んだら、部屋に戻ってハチミツティーを飲みましょう。後は、お湯を注ぐだけで、準備万端ですから」
エドワードは頷く。
バロンと話をしていると、さきほどの衝撃が悪夢でも見ていたように思えてくる。
きっと一人だったら、怒りでどうにかなっていた。
身体を横向きにしバロンの腿に顔を埋めた。
もう、何も考えたくない。
王太子という身分も責任も、全てを放棄して、今夜も幼馴染に汚されているかもしれない自分のドメインを、自分が知っている限りの残酷な方法でこの世から消してしまいたいと思った。
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