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第三章 エドワード

77:オーナーは、俺にわずかばかりの金を渡してきました。退職金だそうです

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「ボイスメモです」
「声で残す、あれか?」
「はい。鹿の園の古株に習ったんです。残しておきたい記憶はボイスメモにして残しておくようにと」
「それで、全て記憶は蘇るもののか?」
「いいえ。自分の声を聞いていると点々と蘇ってくるような感じです。最初は物語を聞いている感じなのですが、やがて、現実とボイスメモの内容が、カチッと繋がるようなときがあって、そうやってリアルになっていきます」
エドワードは、この瞬間、自分がオールドドメインを見くびっていたのだと実感した。
こうやって、自衛を行っているのだ。
動揺をなんとか隠していると、バロンが続けた。
「殿下、聞いて下さい。あの人の部屋には、細胞ラボみたいなカプセルが置かれていました。そのこは、少年が寝かされていました。顔や体に殴られた跡があり、そして、俺のしたこと彼は全部見ていたので置いていくわけにはいかなくて、連れ出しました」
じっと耳を傾けていたエドワードは、問いかけた。
「それが、シファーチェか?」
バロンが頷く。
エドワードの心臓が大きく音を立て始めた。
王立細胞研究所の機密データは流出したが、そのデータを使ったオールドドメインは、王立警ら隊が違法娼館や、道行くオールドドメインを抜き打ちチェックしても出てくることはなかった。
ならば異国にいるのかと気を揉んでいたのだが、クラッシックシティー内にいたかもしれないとは。
王立警ら隊や警察が、王立細胞研究所のデータを盗みだしたのはバロン、裏で糸を引いていたのはリッチモンドと当てをつけたのは、事件から数週間後だ。その間にすでにことはここまで運んでいたのだ。
遅かった、とエドワードは奥歯をギリリと噛む。
「殿下?」
「そのまま続けてくれ」
「分かりました。俺は最初はシファーチェを部屋に匿っていました。ですが、すぐに見つかってしまって。しかし、所有者記録のない綺麗なオールドドメインを見てオーナーは大喜びしました。そして、彼にシファーチェと名付けて、男娼に。最初は責任を感じて、この世界で生きて行けるよう性技を教えたりしたんですが、鹿の園デビューから最速、五か月と五日で王の座についてしまって。多分、目覚めてから一番、悔しくて情けない瞬間だったと思います。男娼なんて仕事好きではありませんが、長くやってきたので」
バロンは、長い息をついた。
「オーナーは、俺にわずかばかりの金を渡してきました。退職金だそうです。その頃、あの人は警察から王立細胞研究所へのハッキングを疑われていて、実行犯が俺ではないかと鹿の園では噂になっていました。オーナーは、俺がスクリーニングされているとはいえ、鹿の園から逮捕者が出るかもしれないというのを恐れて厄介払いしたかったんだと思います。王の部屋を覗くと、あの人がシファーチェを抱いている最中でした。俺が盗み出した機密データというものが、王族やそれに次ぐ身分の方々の核細胞データだということはのちほど知りました。とんでもないものを盗み出してしまったという恐怖よりも、あの人に裏切られたショックの方が勝りました」
「シファーチェは、リッチモンドの部屋にいたのだろう?それが、鹿の園にいて王の位の男娼になっていたら、抱くどころか動揺するのではないか?」
「俺もそれは思いました。というより、そこに一縷の望みをかけていました。あの人は、前より一層鹿の園に溺れているような感じでしたので、シファーチェと対面して正気に戻るのではないかと。けど、それは全然。愛おしいドメインだと燃え上っていました。それお見て俺は、自分の部屋に戻り、気が付けば、火を放っていました」
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