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第三章 エドワード
76:用意周到な男だな
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エドワードは慰めの代わりに、バロンの肩を軽く擦った。
「王立細胞研究所に侵入する話は、いつ持ちかけられた?」
「出会ってから一か月後です」
「よくそんな短い期間で、犯罪の片棒を担ぐことを決意できたな」
「毎日、来てくれたんです。そんなお客、今までいなかったから。だから……」
「ほだされて承諾した、ということか?」
すると、バロンが首を振った。
「不安から承諾しました。断ったらもう来てくれないだろうと思って。すぐ、他のドメインのところに行ってしまうと思って。けど、結果は同じでした」
淡々と語るバロンを、エドワードは痛ましく感じた。
「王立細胞研究所は、独立したデータベースを所有しており、外部からハッキングはできません。ただ、監視カメラなどのセキュリティーは外部に依存していますので、あの人はそちらをハッキングし、俺が忍び込でいるうちはすでに録画した画像を映すというやり方をしました。入手した地図データや、極秘データの入手方法も全部事前にインストールして俺は潜入しました」
バロンはエドワードに包帯の巻かれた手を見せる。
「そして、左手に機密データをインストールを」
「右ではなくか?」
「そっちは逃亡後に、闇ラボでしてもらいました。まだ、店を開いたばかりで、だからオールドドメインでも客にしてくれて、格安でやってくれたんです」
「そうか、そうだったな」
「翌日、あの人に渡しました。よくやったとすごく褒めてくれて、夜に行くからと言われたので楽しみに待ちました。けれど、二日経っても三日経っても来てくれなくて、受付係に聞いたら、『リッチモンド様は、数か月滞在予定だが、お前の指名は今のところ一件もない』と」
バロンは歯を食いしばる。
絶対にこんな男のために泣くものかと我慢しているように、エドワードには見えた。
「俺は、暇を見てあの人を張り続けました。すると、さすがにずっと連泊はできなかったのでしょう。鹿の園を出る日があって、跡をつけました。鹿の園は監視が厳しいけれど、これだけ大きいと全てに目は行き届きません。だから、古株の男娼は、抜け道を幾つも知っていました。俺も、そこから抜け出しあの人を付けました」
バロンは唾を飲み込む。
「そして、後日、あの人がまた鹿の園に泊まるようになって、そこに忍び込みました。そこは館でなく、小さなアパートメントでした。パソコンとベッドがあるだけのシンプルな部屋でした。俺、心配症だから、あの人がくれた地図データや、極秘データを、王立細胞研究所に忍び込む前に闇ラボに行って全部コピーを取っていたんです。だから、ハッキングも御手の物で。一度、あの人に渡ったデータを取り戻し、パソコンにウイルスを走らせました。絶対にもうパソコンが使いものにならないウイルスです。これも、あの人が作りました。データ入手後に誰かに出くわして捕まりそうになったら、これを使えといわれていたので」
「用意周到な男だな」
「はい。そういう意味では神経質な人だったと思います」
「だが、矛盾するところもあるな」
「何がですか?」
「リッチモンドは、最初からお前を裏切る気だった。だったら、お前に覚えておかれては困るのではないか?私だったらスクリーニングする」
「はい。俺、スクリーニングされました」
「じゃあ、どうして覚えている?スクリーニングが甘かったということか?」
「いいえ」
とバロンが首を振る。
「王立細胞研究所に侵入する話は、いつ持ちかけられた?」
「出会ってから一か月後です」
「よくそんな短い期間で、犯罪の片棒を担ぐことを決意できたな」
「毎日、来てくれたんです。そんなお客、今までいなかったから。だから……」
「ほだされて承諾した、ということか?」
すると、バロンが首を振った。
「不安から承諾しました。断ったらもう来てくれないだろうと思って。すぐ、他のドメインのところに行ってしまうと思って。けど、結果は同じでした」
淡々と語るバロンを、エドワードは痛ましく感じた。
「王立細胞研究所は、独立したデータベースを所有しており、外部からハッキングはできません。ただ、監視カメラなどのセキュリティーは外部に依存していますので、あの人はそちらをハッキングし、俺が忍び込でいるうちはすでに録画した画像を映すというやり方をしました。入手した地図データや、極秘データの入手方法も全部事前にインストールして俺は潜入しました」
バロンはエドワードに包帯の巻かれた手を見せる。
「そして、左手に機密データをインストールを」
「右ではなくか?」
「そっちは逃亡後に、闇ラボでしてもらいました。まだ、店を開いたばかりで、だからオールドドメインでも客にしてくれて、格安でやってくれたんです」
「そうか、そうだったな」
「翌日、あの人に渡しました。よくやったとすごく褒めてくれて、夜に行くからと言われたので楽しみに待ちました。けれど、二日経っても三日経っても来てくれなくて、受付係に聞いたら、『リッチモンド様は、数か月滞在予定だが、お前の指名は今のところ一件もない』と」
バロンは歯を食いしばる。
絶対にこんな男のために泣くものかと我慢しているように、エドワードには見えた。
「俺は、暇を見てあの人を張り続けました。すると、さすがにずっと連泊はできなかったのでしょう。鹿の園を出る日があって、跡をつけました。鹿の園は監視が厳しいけれど、これだけ大きいと全てに目は行き届きません。だから、古株の男娼は、抜け道を幾つも知っていました。俺も、そこから抜け出しあの人を付けました」
バロンは唾を飲み込む。
「そして、後日、あの人がまた鹿の園に泊まるようになって、そこに忍び込みました。そこは館でなく、小さなアパートメントでした。パソコンとベッドがあるだけのシンプルな部屋でした。俺、心配症だから、あの人がくれた地図データや、極秘データを、王立細胞研究所に忍び込む前に闇ラボに行って全部コピーを取っていたんです。だから、ハッキングも御手の物で。一度、あの人に渡ったデータを取り戻し、パソコンにウイルスを走らせました。絶対にもうパソコンが使いものにならないウイルスです。これも、あの人が作りました。データ入手後に誰かに出くわして捕まりそうになったら、これを使えといわれていたので」
「用意周到な男だな」
「はい。そういう意味では神経質な人だったと思います」
「だが、矛盾するところもあるな」
「何がですか?」
「リッチモンドは、最初からお前を裏切る気だった。だったら、お前に覚えておかれては困るのではないか?私だったらスクリーニングする」
「はい。俺、スクリーニングされました」
「じゃあ、どうして覚えている?スクリーニングが甘かったということか?」
「いいえ」
とバロンが首を振る。
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