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第三章 エドワード

73:お前が手を離してくれないから、ここで休むことになりそうだと

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エドワードは、ブランケットの下のバロンの左手を探して握った。
「大変だったな」
すると、返事をするようにバロンが握り返してきた。
エドワードは、そのまま黙ってバロンの手を握り続けた。
「早く、心と身体の傷が癒えるように願っている」
エドワードは、もう片方の手でブランケット越しにバロンの心臓の辺りと、顔の火傷の痕に触れる。
すると、バロンが気持ちよさそうに目を瞑る。
「ダニエルのラボにせっかく出向いたのに、向うの都合で診察できなくてすまなかった。火傷に強いラボは他にもあるから、折りを見てそちらに行くか?」
バロンは、黙って頷く。
ラボでの不自然な幼馴染たちの行動に気付いているはずなのに、彼は深く聞いてこない。そういう気の使い方が、やはり彼をヴァレットにしてよかったとエドワードに思わせる。
エドワードの方から手放すことは、考えられない。
彼がもう罪は償ったから解放して欲しいというまでは、傍に置きたい。
そんな気持ちをエドワードは、はっきり自覚した。
「ラリーさんが殿下の恋仲だと思っていたので、こういうことをされるのは、ちょっとした浮気なのかなと思っていました。まあ、でも、俺みたいに汚いと浮気の範疇にも入らな……」
エドワードは、首の裏までバロンの肌を触る。
「バロン。私は、自分からこうやって相手に近づいたことはない。ラボでの口づけ未遂だってそうだ。何と説明していいのか分からないのだが、今夜、お前の元を訪れたのだって、お前と話して癒されたかったからだ」
「癒し?俺なんかと、したいといことですか?右手以外は空いてますが」
エドワードは首を振りながら、バロンから手を離す。
「そういう意味ではない」
すると、離れて行こうとするエドワードの手をバロンが素早く掴んだ。
「すみません。俺、いつも間違えてしまって。俺みたいなのに癒しを求めていただいて、嬉しいです」
「俺なんか、とか、俺みたいな、とか、卑下はしなくていい。今夜の私を癒せるのはお前だけだ。自信を持ってほしい」
「そう言われると、この手を離しがたくなります」
「私も、お休み、よく寝ろと言って自分の部屋に引き上げるのが惜しい」
バロンがエドワードの手を握ったまま、上目遣いで見つめてきた。視線が絡み合って、ダニエルのラボで唇を合わせそうになったときと同じ雰囲気が、辺りに充満し始める。
あの時は戸惑ったが、今は違う。
「バロン」
「殿下」
だが、二人同時に声を発し、間の悪さに苦笑した。
「何を言おうとしたんだ?」
「殿下こそ」
「お前が手を離してくれないから、ここで休むことになりそうだと」
「俺は、男娼時代の寒いフレーズを使おうと思っていました。身体が冷たいので、殿下の体温が欲しいですって」
エドワードがベッドに膝を掛けると、バロンが逆端に寄る。
ブランケットをまくり上げ、ベッドに横たわる。中は、誘い文句とは真逆で温かかった。
バロンがこちらを伺うように見ていた。
森の中に隠れようとする小動物をなんとかいかせまいとそろそろと近づくように、エドワードはバロンの首の下に手を回しゆっくり抱き寄せる。
官能的な息が漏れた。
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