【完結】王と伯爵に捧げる七つの指輪

遊佐ミチル

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第三章 エドワード

72:お前は、大変な思いをしてきたな

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「だって……じゃないですか」
バロンは、ブランケットと痛まない左手で鼻先まで引き上げながら、ごにょごにょと言う。
「お前、ちょいちょい、肝心な言葉が聞こえないことがあるのだが?」
ブランケットを捲ると、怒ったような、でも恥ずかしがっているような微妙な表情のバロンが表れる。
「だから、その、この前、偶然見てしまって」
「何をだ?」
バロンの顔が見る見る赤くなっていくが、エドワードはさっぱり全容が見えない。
「体調が良かったので、午後からでもお仕事に復帰させてもらおうと思い、執務室に伺ったんです。そうしたら、殿下とラリーさんが……」
「なっ」
エドワードは、顔を片手で押えて呻いた。
「お前、覗いていたのか?」
バロンは心外だというように、左手をつっかえ棒にして起き上がりかける。
「違います。最初にノックをしようとしたのですが、ボソボソと声が聞こえるなあと思って、重要な話をされているかと思い遠慮して一瞬覗いたら……。殿下にはメアリー様という未来の女王様がいるのに、ラリーさんとも恋仲だったなんて知りませんでした。きっと、内緒の恋なんですよね。俺、誰にも喋りませんから」
「ちょっと待て。私とラリーが恋仲?」
エドワードは、身体を完全に起こそうとしているバロンを、横になるよう手で押しとどめる。
再び、ベッドに横たわったバロンが言った。
「違うんですか?」
「全くそれはない。前、言ったはずだ。誰かと身体を重ねるのは煩わしさの方が勝ると。だが、いつまでも溜めこんで発散しないわけにもいかない。今にも目の前の相手を犯しそうな顔をしていますよとラリーに茶化される」
「はあ」
「奴も奴で、今日、飲みに行きますか?ぐらいの感覚で誘って来る」
「つまり、身体だけの関係ということですか?」
「私は、ラリーの肌に触れたことがない。こんなことを言うのは言い訳がましいが、自分から誘ったことも無い。察する能力が異様に高いラリーが、絶妙なタイミングでやってきて、発散してくれる。つまり、感謝している」
すると、バロンが「アハハハハ」と笑い出した。
「何だ、そんなにおかしいか?」
「艶事の話をしているのに、感謝しているって言葉が出てくるとは思わなくて」
「じゃあ、何て言ったらいいんだ?」
「うーん。殿下の場合は特殊かもしれないですね。はあ、笑って涙が出たのは初めてだ」
バロンは、左手で目尻に浮いた涙を拭う。
「テレビでしかお姿を見たことがなかった頃は、極寒の中をノシノシと歩くグリズリーみたいな強い人だと思っていました。なのに、こんな方だったとは」
「スマートな会話もできない、四角四面な男だ。笑われてばかりいる。しかも、お前が偶然見たような、間抜けで卑猥なことだってする。実際の私は、全く格好が良くない」
「今日の殿下は、素直です」
柔らかい表情でバロンは笑う。
「格好悪いと言って困った殿下の顔を見て、何だかすごく安心しました。俺も、相当格好悪いところを見られたから」
「お前は、大変な思いをしてきたな」
「別に俺は」
とバロンは、自嘲的に笑う。
「足を開いて、喘いで、抱かれていただけで」
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